第2話 苦労人クロケット

さてさてまずは物申したいこともある。

客観的に見ての話、木馬に抱えられ行きついたこの世界「果たして都合よくも元の世界に行くものか?」と疑心暗鬼になってもいいものである。


経緯をまとめるとだ。

ラスボス感丸出しのバケモノと何やら因縁を語り合いドンパチやった挙句、親子ともどもどこだかわからぬ謎空間、あえて称すれば【絶対に勝てない絶望空間EX】に攫われたと思ったら父の命と引き換えに命からがら逃げ延びた。

みたいな概要である。


もしやの事だが「また更に別世界に来たのでは?」といっとき不安になったが、星や月の位置からココが見知った世界で山である事がわかった。

別に星に詳しいわけでもないが、春夏秋冬変わりなく明るく輝く星々は見知ったもので他にあてがある様なやつらでもない。

どうやら木馬の謎パワーで都合よく元の世界に戻されたようだ。


付け加えると、父が遣わした木馬の亡骸はどこをどう見ても木製の四角い馬であり、ごちゃごちゃしたカラクリも見受けられず、とんでもない力を秘めたを動力炉に隠し持っているわけでもなくで空洞も継ぎ目も無い無垢の彫り物であり、結局どういうものかもなんなのかもわからなかった。


なんとなくある程度の折り合いをつけたクロケットは一晩を木馬とともに明かした後で木馬を残し、日が昇る前に山を降りることにした。

わからないのは仕方がないし、こんな大きくかさばるものを父の形見だと持ち歩くわけにもいかずどうしようもない。

今は父の墓標となるこの馬もいつか土に還るだろう。


唯一父の形見となった名も無き剣を携え、何の未練もなく木馬を後にした彼女の顔にはもはや潔さしか伺えない。


とりあえずは人里をめざすことをヤブの中で一服した後決めた。

人里に下らねば考えもまとまらない気がしたのだ。


何者かが「このまま山に住もうぜ!山で修行でサバイバルだぜ!」とか念を飛ばしてくる気がしたが気のせいである。


数奇とは何となく違う、しっくり来る言い回しで奇抜な毎日を彼女は送っていたのだ。そのおかげか野営は得意だが、彼女は獣ではなく人である。こんなところで野猿のように何時までも糞尿をたれる訳にはいかない。

人である彼女には人里というホームがある。乞食のゼペットの娘は乞食の娘であるがホームレスではないのだ。


ぶっちゃけるとお風呂に入りたい・・・・身を清めたいのである。

近場に川があれば二三日は違った選択もできただろう。しかし都合良く川があるということはなかった。

やろうと思えばなんでもできたであろう父もこの付近の山に住むことはなく人里で乞食をしていたのだ。住みづらい山なのかもしれない。


そもそも14里を半刻で走り切る彼女にとって認識するテリトリーは広い、ホームの切り替えという概念は気薄だ。ココもそこも山3つ越えても俺んち、あたしんちである。


だから山ごもりエピソードは無いのだ。



クロケットという少女が産声を上げたのは5年前である。

要するに彼女は5才児であるわけなのだが、わくわく動物大百科の解説で大変な健脚を誇るらしき走竜、その2倍の速度で14里を走り切るのだ普通の5才児ではない。


それにだ。

何よりも一部の人間に「コレじゃない」と言われる様なアレな容姿をしている。


少女なのに正確には幼女なのに人里では彼女より背が高い成人した女性はいないし、その四肢は長く、胸も腰つきも大変に肉感的でけしからん女性的なラインをしている。


早熟でもあり同年代と全く話が合わず孤立していたが、その母親であるママさんたちとは気が合い意気投合したりしていた。乞食の娘だが。


母親は誰なのか知らない。ザジオンも語らなかった。

ある日の酔っ払ったザジオンの話では川へ洗濯に行った所、川上から大きなジャガ芋が流れてきて割ってみたらクロケットが出てきたのだという。ジャガ芋とはどんな芋なのか分からないがそんな感じで出生についてあやふやに聞かされてきた。


考えればおかしい話かもだが生まれて数週間でこの容姿になり、立派な武士になるために父の小兵として小間使いというなの修行をこなしてきた。「武士といえばベースウェポンはコレだ」みたいに剣術や槍術はもちろんのこと各種兵法、正しき武士もののふのあり方や臣下としての忠義など、たった5年ではあるが胸を張れる密度の情操教育を受けていた。


人里では民の目を潤す演目として父の優れた教育の成果を堂々と披露したものだ。

その武技も身体能力の高さを魅せつける軽業も見るものが見れば目を見張る神業であるが、生憎人里にはそんな目利きもいない感じで銭入れ片手に傅くザジオンに向けて捻りを放るくらいだ。


そもそも人里の者達には顔見知りも含めてザジオンの娘だとは思われていない。

「あんたの旦那 道端で粗相しようとしてたから水ぶっかけといたわ。ちゃんとしつけなくちゃ駄目よ?」とか

「おめえの兄貴に酒代つけられてるけどいつ払ってくれるんだ?と言うかノリで了承したけどマジこれ返せるの?乞食に投資とかワロタ。マジこれ洒落にならんよコレマジ俺どうしよう?」とか

「実際あんたっていくらなんだい?ゼペットに聞いたら笑いながら肩パンしてくるんだよ」とか

「あんたの舎弟が裸で堀に浮かんでたんだがついにエンコか?」

みたいな認識で間違いない。


まともに確認したわけではないが大まかな話ではザジオンの妹か嫁と思われ、少しひねったアレでは見聞を広めるため辺境の人里にきた芸妓で父はその下郎と思われている。誰もが、クロケット以外の全てがザジオンの一粒種だとは思いもしない。


そもそもクロケットは分かってないが仲がいいママさん達と気があった理由の一つがその格好である。クロケットはママさんたちとさして違わぬ身なりであったのだ。

ママさん達はいわゆる商売女というアレであるわけだが。


ダダの長着というやつだ。この地方の民族衣装でもある。しかしだ、丸みのあるラインに合わせ狙った用に着崩している。胸元と脚周りが大きく開けているし、五月蝿くないぐらいに乱れていていかにも扇情的な出で立ちなのだ。腰つきなど堪らなくくるものがある色香を出していた。


この素晴らしい業前はザジオン先輩のフルコーディネートである。大変に良い仕事をするクズである。


だが5歳だ。


クロケット5ちゃいなのだ。


さて、彼女についてもろもろ説明した頃にはクロケットは14里離れた人里に巡りついていた。







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