第11話 巨大戦艦アイフィオーレ
「はふぅ……疲れたであります……」
「ロンバっちはいいじゃん、特訓なしで。ルルなんて、これからレミル様とのタイマン授業だよ……?」
「それはルルが悪いであります。あの場面で外すなんてアホなことをしでかした罰でありますよ」
「う、うるしゃい!!」
「はは、噛んだでありますね」
「ぐぬ~……!」
訓練を終え、休憩所でドリンクを啜る新兵たち。カイトもその中に混じり、彼らの愚痴を聞いていた。
「しかし、驚いたなぁ。レミルさんが、あんなに怖い人だったとは」
「レミル様は、ある意味鬼教官として有名なのでありますよ。飴と鞭を自在に使いこなし、我々のようなへっぽこ新兵でも、一人前の兵士に育て上げてくださるのであります」
「まあ、怖いときはホントに怖いから、逃げ出す人も居るみたいだけどねぇ」
「へぇ」
カイトの右隣に座るのは、先の訓練で頻繁に通信していた、“であります”が口癖の、短い茶髪をした若い男。名は、ロンバルディア。貧民の出らしいが、ひょんなことからミリルと出会い、たまたま空いていた霊機人を与えられたそうだ。
左隣に座るのは、地面につきそうなほどに長い赤いツインテールが特徴的な、小柄な女の子。名は、ルルーニャ・エンプレイツォ。貴族の出らしく、顔もかなり整っている。愛国心の強い人物で、父親に頼み込んで特注の霊機人を作ってもらったらしい。が、肝心の、彼女自身の腕がいまいちであった。
「でもまぁ、軍の訓練なんて、きっとどこもこんなものだよ。むしろ、ここは優しい方じゃないか?」
「カイト殿は、前の世界でも軍人だったと聞いたであります。大先輩なのであります」
「世界を越えても軍人になろうだなんて、なかなか大したものだよね~」
「あっちのは正式には軍じゃないんだけどね」
世間話をしつつ、明日の予定を考えるカイト。今日は、ロンバルディアと共に、“補習”を申しつけられたルルーニャに付き合うつもりなので、既に予定は埋まっているのだ。まぁ、付き合うといっても、彼女の補習が終わってからなのだが。それまでは読書でもして過ごすつもりだ。
「お~い、新兵ちゃ~ん」
「あっ、レミル様~」
「今日は怒鳴っちゃってごめんね? まだ不慣れなんだもの、外したって仕方ないわよね」
「レミルさんが怒鳴ったのは、ルルが外した後なのでは……」
「義弟クン、何か言ったかしら」
「い、いえ」
まったりと休憩するカイトたちの前に現れた、長いサイドテールの美少女。声色はすっかり元の優しいものに戻ってはいるが、どことなく威圧感を放っているように思えた。
「さぁ、新兵ちゃん。楽しい楽しいお勉強といきましょうか」
「は、はぁい」
「こら、気の抜けた返事をしないの」
「はいっ!」
「うん、よろしい。義弟クン、じゃあね」
「はい、また」
「お疲れ様なのであります、レミル様!」
こうして、ルルーニャはレミルに連行されていった。ちょっと目が死んでいたように見えたのは、きっと気のせいだろう。
ちなみに、ミリルは用事で席を外している。
◆
沈んだ顔をしたルルーニャと、彼女へ哀れみの目を向けるロンバルディアの二人と共に“特訓”をし、翌日を迎えた。カイトとしては、せっかく知り合ったこの世界での友人が、逃亡兵になってしまわぬように祈るばかりである。
「カイトさま、おはようございます」
「おはよう、ニーナ。今日はいい天気だな」
「はい。絶好のお散歩日和ですね」
「ああ」
爽やかな朝日を浴びて起床したカイトは、己の元飼い犬、現皇女殿下と目が合った。彼女はベッドの横にちょこんと座っており、どうやらカイトの寝顔をじっと観察していたようだ。
「そういえば、まだ街に行ったことがないな」
「訓練が重なっていましたからね。お疲れ様です」
「ありがとう。でも、まだまだ足りないよ。もっともっと腕を磨かないと、話にならない」
「でも今日は、休日ですよ? レオン兄さまもレミル姉さまも、教練場にはいらっしゃいません」
「あら、そうなのか」
「はい」
それを聞き、しばらく首を傾げるカイト。そして、とりあえず朝食をとることにした。加えて、着替えもまだ済ませていないのだ。起きたばかりなのだから。
「カイトさま、今日はお散歩日和ですね」
「……おう、散歩に行くか」
「えへへ」
少々時は過ぎ、カイトとミリルは王城の入口に来ていた。そして、眩しい朝日を眺めながら、せがむように言葉を向けるミリル。
要は、街に行きたいらしい。そして、カイトはあっさりと陥落した。ちょろい男である。
「せっかくこの国にいらしたのですから、王城に籠もってばかりなのは勿体ないですからね」
「まぁ、それもそうだけどね」
「お金はありますから、心配は無用ですよ。欲しい物があったら、じゃんじゃん買っていってください」
「普通逆じゃないか、これ」
「細かいことを気にしたら負けです」
「お、おう」
ミリルに腕を引かれ、王城からどんどんと離れていく。エスコートするお姫様と、エスコートされる元飼い主。確かに、普通は立場が逆のはずであった。
「賑わってるな」
「そうでしょう。この国はそれほど人口が多くはありませんが、帝都はかなり人が多いんですよ。自慢の街です」
「立派なもんだ」
「えへへ、ありがとうございますっ」
腕を絡ませ、仲睦まじく街を歩く二人。カイトはともかく、ミリルは皇女なだけあって、かなりの有名人であり、そんな彼女が恋人のように触れあっている男は何者だ? と、人々の刺々しい、あるいは不思議そうな視線が突き刺さる。
(ニーナは気にしてないようだけど、これは割 と堪えるな。慣れるしかないのか)
当然、カイトはその視線に気がついており、何とも言えない気分になっていた。しかし、隣のお姫様がご満悦なようだし、彼も幸福を感じているのは事実である。
「カイトさまに、見せたい景色があるんです。きっと驚きますよ」
「へぇ? なんだろう」
「こっちです、こっち」
「おう」
またもミリルにエスコートされ、うっかり彼女の足を踏んでしまわないようにゆっくりと進むカイト。
そして、たどり着いた先は……。
「……なんじゃこりゃ!?」
「えへへっ、やっぱり驚きましたね?」
「そら驚くわ!!」
街を端まで歩くと、“壁”があり、“窓”があった。そこを覗き込むと、なんと──。
「なんで外が動いてるんだよっ!」
「逆です、逆。外ではなく、この国が動いているんです」
「……へ?」
まるで、電車の車窓から覗いているかのように、外の景色が流れていくのである。たまらず、カイトは驚愕の声を上げた。そんな彼に、悪戯っぽい笑みを浮かべながら答えるミリル。
「“機械帝国アイフィオーレ”は、とてつもなく巨大な戦艦の中にあるのです! 王城があるこの“階層”が最上部になっていて、下の階に行けば別の街が広がっているんですよ。格納庫も、各階層ごとにあります」
「きょ、巨大戦艦!? そんなもんがある……っていうかこの国自体がそうなのかっ!?」
「はい。遙か昔にあったという失われた技術が用いられているため、今の時代では、同じ物を建造するのは不可能なのですけどね」
「…………」
文字通りの『動く国』。それが、機械帝国アイフィオーレの正体であった。ミリルの言から察するに、恐らく“現代を超越する技術レベルを誇った古代文明”があったのだろう。
驚愕のあまり、しばらく言葉を失うカイトなのであった。
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