第10話 vsサイクロプス
『カイト殿、ターゲットを確認したであります。攻撃しますか?』
「いや、待ってください。こちらの方が、数が多いとはいえ、我々は戦いに不慣れです。奴らを一体ずつおびき寄せて叩きましょう」
『了解であります!』
ミリル、レミル姉妹が見守る中、新兵部隊の指揮を執るカイト。何故彼がそんな事をしているかというと、戦闘技術を会得したばかりの新兵たちでは、味方を動かす術を知らなかったからだ。その点は、自衛隊で軍事演習を経験しているカイトの方が上手だった。
『具体的には、どうするでありますか?』
「俺が、スナイパーで一番手前にいる奴の目をぶち抜きます。あなた方は、まだ隠れていてください」
『はっ!』
今日に備えて、自らの霊機人の装備を厳選していたカイト。彼の機体には、遠距離用の〈量産型十二式狙撃霊破砲〉と、近中距離用の〈量産型十二式突撃砲〉が一丁ずつ備え付けられており、腰のナイフはパイルバンカーに換装されていた。
尚、“○○式”という部分は、兵装としてのランクを指し示し、その中でも十二式は一番の安物である。レオンやアングラウス皇帝は、カイトの機体に、皇族用の〈特式〉兵装を支給しようとしていたが、何の実績もないのに特別扱いしすぎるのは良くないと、レミルがそれを却下した。カイト自身も同意見である。
そして、真紅の霊機人の手に狙撃霊破砲が握られ、スコープをのぞき込むような動作をした。別にこんな事をせずとも、コックピットのモニターを拡大すればいい話なのだが。
機体と同じ色をした長筒が火を噴き、見事にサイクロプスの眼球を射抜く。たまらず、一つ目の巨人は悲痛な叫び声を上げた。その巨体は、霊機人と同じか、それを少々上回る程だ。
「よし、来た」
その後はわざとターゲットの足元に撃ち込み、自らの位置を知らせてやる。そして、カイトの目論見通り、巨人は音を頼りにこちらへと近付いてきた。
『行くでありますか!?』
「いえ、もう少し待ちましょう」
『りょ、了解! なんだか、少し怖いでありますな……』
「まったくですね。迫力がありすぎますよ」
『カイト殿でもそう思われるので?』
「ええ。魔物なんかと戦うのは初めてですからね。元の世界には居なかった生き物ですし」
『そういえば異世界人との事でありましたな』
「はい。あちらは、平和でしたね。少なくとも、俺がいた国は」
新兵と会話しつつも、モニターからは目を離さない。サイクロプスが足を止めれば、すかさず足元に撃ち込み、音で誘導する。幸い、後方の三体は止まったままだ。
遂に、手頃な位置までやってきた。ここまで来れば、この一体だけを仕留めることができるだろう。
「今です!」
『了解! 皆、行くでありますッ!!』
隠れていた霊機人たちが飛び出し、一斉に攻撃を開始した。巨大な剣で切りつけたり、銃弾を浴びせたり。一つ目の巨人も暴れて応戦するが、既に目を潰されているため、その攻撃を避けるのは容易い。
「これでも、食らえッ!」
真紅の霊機人がパイルバンカーを構え、サイクロプスの土手っ腹へと拳を突き刺した。単純極まりない武器だが、威力は抜群である。カイトの霊機人が少々パワー不足だとしても。
嵐のような攻撃の前に、たまらず倒れ伏す巨人。しばらくはジタバタと暴れていたが、やがて力尽き、その活動を終えた。
『やったであります!』
「ええ。気を抜かず、他のサイクロプスも処理していきましょう。先ほどと同じ手順でいきますが、どなたかスナイパーをお持ちの方はいらっしゃいますか?」
『えっ、カイト殿は?』
「こういう事は色んな人が経験しなければ。訓練なのですから」
『そ、そうでありますな。それでは──』
『ルルがやる~ッ!』
「これはまた、随分と元気がいい。頼めるかい?」
『まっかせて~』
カイトと通信していた新兵が前に出ようとしたのを遮り、若々しく、甲高い声が名乗りを上げた。聞いた限りでは、恐らくは成人したばかりだろう。新兵は皆若いのだが、その中でも一際幼いのではないだろうか。
カイトは、耳に届いた声から、そんな事を思っていた。
そして、長筒が火を噴く。が……?
『あ、あたらない……』
『ああッ!? 他のサイクロプスたちに気付かれたであります!』
『わぁっ!? ご、ごめんなさい~』
「あはは……ドンマイ、応戦しよう!」
『うん~……』
“ルル”という女の子が乗る霊機人が放った弾は、しかし一つ目の巨人に当たることはなく、あらぬ方向へと飛んでいった。それだけでなく、三体のサイクロプス全てが気付き、向かってくる始末。
慌てる味方を制しつつ、冷静に応戦する事を選択するカイト。元々、数の利はこちらにあるし、先ほど一体は仕留められたのだ。倒せない相手ではない。
「あの巨体なら、素早い動きはできないはずです! 皆さん、落ち着いて対処してください!」
『わわっ、あ、危ないであります!』
『うひゃあっ!? か、かすった~』
「……仕方ないか」
さすがは新兵。恐らく、彼らが全員、実戦はこれが初めてなのだろう。ノロい巨人を前にしてわたわたと慌てており、動きに精彩を欠いているどころではない。
内心ため息を吐くカイトだったが、遂に背後の霊機人から怒声が飛んできた。
『こぉら、新兵クンたち!! 落ち着きなさいッ! 死にたくなければ前を見て、冷静に相手の動きを見極めるのよ!! あんまり酷いようなら、後で猛特訓だからねッ!』
『レ、レミル様ッ!? 申し訳ありません!』
『謝罪なんていらないわよ!! まじめに戦いなさい、まじめにッ!! 義弟クンを見てみなさい、この世界に来たばっかりだって言うのに、あんたらよりよっぽど戦えてるじゃない! 情けない兵士たちね!』
『は、はいぃっ!!』
ミリルと共に、戦局を観察していたレミルである。もはやその声に優しさはなかった。今にも巻き舌になりそうである。
(こ、怖いな。普段はあんなに可愛らしいのに……)
どうやら、一見厳しそうに見えて実は甘々なレオンよりも、一見甘そうに見えるレミルの方が厳しいようだ。普段は優しく、気さくな女の子なのだが。
レミルの怒声が効いたのか、新兵たちはようやくまともな動きをするようになった。十二式突撃砲で敵の目を潰し、一体ずつ集中砲火して倒していく。
結果、なんとか一機も欠けることなく、この場を潜り抜けたのだった。
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