第7話 霊王機と霊機人


 例のブツを、死んだ目をしながら奥底に封印し、ボーッとたたずむミリル。心なしか、空気が淀んでいる気がする。


「お~い、ニーナ。帰ってこ~い」

「……カイトさまに見られた……わたしのバカ、なんで隠しておかなかったの……?」

「お~い……」

「はっ……! す、すいません!」

「お、おう。まぁ、そんなに気にするなって」

「でもぉ~……いやらしい女だって思ったでしょう?」

「いや、別に。妹のも見たことあるしな」

「えっ、イブお姉ちゃん?」

「あ、お姉ちゃん呼びなんだ……」


 気を取り直し、椅子に座るカイト。ミリルは、彼と向かい合う形で、ベッドに腰掛けている。


「まぁそれは置いておくとして」

「あ、はい。霊王機のことでしたね」

「そうそう」


 こほん、と咳払いをし、本題に移る。部屋がまさかの写真館だったり、例のブツを見つけてしまったりと、ハプニングはあったが、今はそれより大事なことがあるのだ。


「実は、霊王機は、この世界の人の手で作られたものではないのです」

「なんだって? じゃあ……」

「異世界人が作ったもの、というわけでもありません。この国が建てられるよりも前に、この地に舞い降りた、七機の機械神。それこそが、霊王機。つまり、生きているのです。シヴァも、他の霊王機も」

「機械……神……? え、アレ神様なのか?」

「はい。と言っても、意思を通わせる事はできませんが。でも、彼ら自身に認められないと演者になることができないので、自我は未だに保っているとは思います」

「なるほど。じゃあ、霊機人は?」

「アレは、霊王機を研究した結果、人の手によって作り出された物です。オリジナルよりも、遙かに性能は低いのですけど」

「すごいな。いくら見本があるとは言え、あんなもんを作れちまうのか」

「演者を簡単に変えられず、演者自身が機体の乗り換えを容易にできないという欠陥がありますから、研究者たちは満足していないようですよ」

「ふむ」


 七機の機械神と、それを元にして作られた量産型。霊王機と霊機人とは、そういうものらしい。ここで一つ、疑問ができた。


「待てよ。霊王機は七機あって、その全てがこの国に居るってことか?」

「いえ。残っているのはシヴァのみで、他の霊王機は行方しれずになっています」

「ん? どうして?」

「彼らは、自身の演者となるに相応しい人間を求めて、世界中を移動しているのです。かつては、全機がこの地に集う機会もあったようですが、今は……」

「なるほどね。じゃあ、その“相応しい人間”が居れば、そいつの前に姿を現すのか」

「はい。シヴァがそうでしたから」

「へぇ……ニーナ、本当にすごいんだな」

「えへへ、もっと褒めてください」

「よしよし」


 カイトが顎の下を撫でてやると、彼女は目を細めて悩ましい喘ぎ声を上げた。その官能的な音色に思わずクラッとする、元飼い主。


「なぁ、他の霊王機って、どんな奴らなんだ?」

「はい。残されている記録によると、それぞれ、“インドラ”、“ザッハーク”、“サタン”、“アンラ・マンユ”、“ニャルラトホテプ”、“イブリース”、という名を持つそうです」

「……へ、へぇ~」


 ことごとく地球の神話に名を残す神々ばかりである。しかもよからぬ方向の。よくよく考えれば、シヴァも、破壊神の名だったはず。


(もしかして、霊王機ってヤバい奴らなんじゃないか……?)


「ニーナは、どう思う? 霊王機を、全て揃えたい、とか」

「うーん、このご時世ですから、力があるに越したことはないのですけど……過ぎた力は身を滅ぼす、と言いますしね」

「だよな」

「はい」


 どれだけ強いのかはわからないが、まぁ霊王機なんてものは一機だけあれば充分なのだろう。わざわざそれを探すこともない。第一、操縦できる者がいないというのだし。

 カイトはそう結論づけ、霊王機の事を頭の隅に追いやった。


「さて、それじゃあ何をしようかな……俺」

「今日はゆっくり休みましょうよ」

「ああ、うん。いや、働かないわけにもいかないし、どうしたものかなと」

「地球から来た方から聞いたのですが、“じえーたい”というものがあって、カイトさまはそこにお勤めだったのですよね?」

「ん、そうだな。理解してたのか、俺たちの会話」

「この国では日本語が公用言語なんですよ。建国の父が、日本人だったそうなので」

「そうなの!?」

「はい。それで、聞き覚えのある“じえーたい”、“じえーかん”という言葉を耳にし、その意味を調べたんです」

「な、なるほど……」

「そこで、ですね。この国にも当然、軍隊があります。カイトさまも、そこでお勤めになってみてはいかがでしょう? わたしもそこで働いていますし、トップがレオンお兄さまなので融通も利きますよ」

「ふむ……ちょっと考えてみるよ」

「はい」


 カイトが思っていた以上に、ミリルはアグレッシブであった。犬であった頃に聞いた言葉を、人間に転生したこの世界で調べ上げるとは。何故、家を空けていることが多かったカイトに一番懐いているのかは、前世の頃から続く、大いなる謎だが。


 それからは、ミリルと部屋でのんびりと過ごし、同じベッドで寝ることになった。というのも、ベッドが一つしか無く、床で寝ようとしたカイトを、ミリルが必死になって止めたのだ。結果、彼女の上目遣いに陥落し、超至近距離で一夜を共にすることとなった。恐らくこれから先も同じなので、一夜どころではないが。

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