第5話 帝都フィオネスブルグ
『到着しましたよ』
「ここが……」
『はい。帝都フィオネスブルグの、第0格納庫です。皇族の機体は、ここに収まる事になっています』
「俺のも置いちゃっていいのか?」
『はい。陛下に“お願い”すれば、大抵のことは通りますから』
「あ、そうなの……」
洋画に出てくるような、古めかしくも美しい街並みが広がる中、無数のロボットが並ぶ兵器ハンガーが存在感を放つ。なかなかに異様な光景であった。
整備員に誘導され、お姫様抱っこされていた真紅の霊機人がようやく解放されたが、直後にガッチリとホールドされた。隣を見ると、ミリルのシヴァも、同様に固定されている。
『これで後は整備員の方々がやってくれますから、わたしたちは降りましょう』
「どうすれば開くんだ? あ、これか」
『座席の右側にハッチ開閉ボタンがあるはずなので、それを押してください』
「合ってた。よいしょっと」
風船から空気が抜けるような音が鳴り、ゆっくりとコックピットハッチが開いていく。刹那の後に、シヴァのコックピットハッチも開き、中から絶世の美少女が現れた。
「その梯子を使って降りてくださいね。飛び降りてもいいのですが、今のカイトさまだと、骨が折れちゃいますから」
「お、おう」
皇女であるミリルがさま付けで呼んだことにより、周囲がざわつく。あの男は何者だ? とでも言いたげに、鋭い視線が刺さった。刺さりまくった。案の定、美しい皇女殿下は大人気らしい。
苦笑いを浮かべながらも、ゆっくりと梯子を降り、床に立つ。そして、いつの間にか目の前に居た女性に驚くカイト。
「うぉっ!」
「うふふ。それじゃ、行きましょうか。ああ、機体の事は心配しなくても大丈夫ですよ。皆さんがしっかりとなおしてくれますから」
「そ、そうか。うん。えっと、いきなり陛下の所に行くのか?」
「はい。今の時間はちょうど空いているはずですし」
「陛下は前世の事をご存知なの?」
「そうですね。一番最初に信じてくれたのが、陛下でした。その次にお姉さま、お兄さま……といった感じです。まあ、身内は割と早い内に信じてくれましたね」
「そうなんだ。良い人たちなんだろうね」
「はい。カイトさまの次ぐらいに」
「う、うん?」
「えへへ」
気になっていた事が一つ、解決した。ミリルの前世を知っているのなら、こちらとしても話しやすい。まあ、直接会ってどんな反応をされるのかは別問題だが、きっとなんとかなるだろう。そう自分に言い聞かせながらも、緊張の色を隠せないカイト。なんだか、恋人の実家に挨拶しに行くようで、ドキドキしているのだ。
格納庫を抜け、赤い絨毯が敷き詰められた王城を、ひたすら歩く。所々に美しい絵画が飾られている辺りは、中世ヨーロッパの城を思い起こさせた。
そして、数十分後。嘘のように巨大な扉が、目の前に広がっていた。
「この奥が……」
「はい、謁見の間です。わたしが帰還したことは既に知らされているはずですし、重要な報告があると伝えておいたので、全員いらっしゃるでしょう」
「え、全員って……」
「皇帝陛下に、お兄さま、お姉さまです。他の方々は、残念ながら他の街にいらっしゃるので、お呼びできませんでした」
「末っ子なんだな」
「いえ、姉と妹がもう一人ずつおりますが、今は留守にしているのです」
「へぇ……」
ますます、恋人の実家に挨拶しに行く気分である。舞台が王城というぶっ飛んだ場所であることを差し引けば、まさにその通りのシチュエーションであった。
意を決し、扉に手をかける。が、しかし。ガッチリと捕獲された。
「ニーナ?」
「ダメですよ、カイトさま。こういう時はこういう時なりのマナーがあるのです」
「そ、そうなのか。ごめん」
「いえいえ。説明しなかったわたしが悪いのです。それでは……」
すうぅと息を吸い込み、そして、優雅に言葉を繰り出すミリル。さすがに、慣れている。
「ミリル・ニーア=アイフィオーレです」
「うむ、入れ」
「失礼します」
(ああ、そういうことか。これは、覚えておかないとな)
自分の名を明かし、向こう側から許しを得て初めて、中に入ることができるようだ。さすがに、きっちりしている。
柔らかな笑みを浮かべるミリルに同伴し、巨大な扉が開いたのを確認してから、謁見の間へと足を踏み入れた。
(すげぇ……)
絢爛豪華とは、こういうものを言うのだろう。美しく輝くシャンデリアに、細かな刺繍が縫い込まれた赤い絨毯。通路を見張るように鎧姿の騎士たちが立ち、様々な像が規則正しく並んでいる。
その最奥部に、美男美女たちが佇んでいた。かなりミリルと似ているので、あれが彼女の新たな家族たちだろう。
(となると、玉座に座ってるのが皇帝陛下か)
そして彼らの前にたどり着き、悠然と跪くミリル。慌てて、カイトも跪いた。
「ミリル。そんな堅苦しい事はせんでいい。その方も、面を上げよ」
「「はっ」」
皇帝陛下は、思ったよりもフレンドリーな雰囲気であった。その声は優しく、それだけでなかなかの好人物だと思わせた。
「陛下。この方が、件のカイトさまでございます」
「は、初めまして。神宮カイトです」
「うむ。話はミリルから聞いておるよ。それはもう、耳が腐るほどにな。初めまして、婿殿。余はミリルの父にして、この機械帝国アイフィオーレの皇帝をしておる、アングラウス・ニーア=アイフィオーレだ」
「へ? 婿殿?」
「……えへ」
アングラウス皇帝から飛び出した“婿殿”という言葉に、目を丸くするカイト。ミリルを見ると、頬を染めながら、ウインクで返してきた。
更に、後ろに控える男女が挨拶してくる。
「初めまして! へぇ、ミリルから聞いてたけど、なかなかいい男じゃない。 あっ、あたしはミリルの姉で、レミル・ニーア=アイフィオーレよ! よろしくね、
「ふん、貴様がカイト・シングウとやらか。言っておくが、俺は甘くないぞ。ああ、忘れるところだった。言うまでもないが、俺はミリルの兄だ。名は、レオン・ニーア=アイフィオーレ。
最後でずっこけそうになったが、これはどうやら、既に逃げられない状況に陥っているらしい。完全に、ミリルの婿扱いされている。
「よ、よろしくお願いします……」
揃ってクリーム色の髪をした御家族一同に、若干気圧される、カイトなのだった。更に姉と妹が居るらしいが、正直もうお腹いっぱいである。
ここで、カイトはあることに気が付いた。
(あれ? ニーナの母親は、いないのか?)
ミリルの母……つまりは、皇后陛下の姿が見えないのだ。もしかしたら、既に亡くなっているのかもしれない。
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