異世界の王に溺愛されています

異世界の王に溺愛されています番外編「クロ視点」

 俺の名前はジョイ。兄のプライドは誇り高き銀狼の一族だって言うけど、俺にはよく分からない。ただ大好きなプライドと毎日一緒にいられれば、俺はそれでいい。

 二人でお腹を空かせて森をうろうろしていたら罠にかかって、危ないところをバルド様とユウリに救われた。

あ、バルド様っていうのは俺達の主。睨まれただけで震えあがっちゃうぐらい怖いんだけど、優しいところもある。俺達が悪さをしてユウリに怒られてたらさりげなく助けてくれたりするし、時々頭を撫でてもくれる。

ユウリはね……うーん、あ、分かった! 俺達の大好きな人! 優しくて、撫でるのがすごくうまいんだ。ユウリの手で撫でられたら、俺もプライドももうふにゃふにゃって体から力が抜けちゃう。プライドはそんな自分を恰好悪いと思ってたりするみたいだけど、気持ちいいんだから仕方がないよね? プライドはいつも深く考えすぎなんだ。毎日美味しい食事にありつけて、プライドと寄り添って眠れる。俺にはここでの生活が楽園みたいに思える。

「あれ? クロ、こんなところで何をしているんだい?」

 城の廊下を歩いてたら、クラウスさんに声をかけられた。クロっていうのはユウリがつけてくれた名前。この名前で皆が俺を呼ぶ時、とっても声が優しいから、俺はこの名前が大好き。ついでにクラウスさんも時々おやつをくれるから大好き! わーい、クラウスさんだ、わーい!

「あ、ちょっと、今は手が放せないからおやつはあげられないよ?」

 クラウスさんは両手にたくさんの本を抱えている。確かにこれじゃあおやつをもらえない。残念。

「そんなにあからさまに残念な顔をされたら、良心が痛むなあ。あ、そうだ。さっき中庭でバルド様が果実を集めてたから行ってみたらどう?」

 え! バルド様⁉ バルド様の名前を聞いた途端、ぴょこんと耳が立った。わーい、さっそく行ってみようっと!

 足取り軽く中庭に向かおうとしたら、廊下の向こうをちょうどユリアンさんが歩いてきた。

「今日もご機嫌だね、クロ」

 うん! だってあっちにバルド様がいるんだって!

 ウキウキと通り過ぎたら、クラウスさんとユリアンさんの会話が耳に入る。

「遅い! 早く持ってこいって言ったでしょ?」

「わざわざ迎えに来てくれたの? ユリアンは優しいなあ」

「勘違いしないでくれる? それがないと研究が進まないだけだよ」

 おかしいなあ。ユリアンさん、俺と二人の時はクラウスさんのことすごく褒めてるのに。んー、まあいいっか! 今はバルド様だ!

 バルド様がいなくならないうちにと、急いで中庭に走る。

「クロ? どうしたんだ、そんなに慌てて」

クラウスさんが言った通り、中庭にはバルド様がいて、木に生った果実を収穫していた。

 ねえ、それ俺も食べたい!

「ああ、これか? お前は本当に食い意地の張ったやつだな」

 笑いながら、バルド様が手の中の果実を差し出してくれる。ぱくりと食べると酸味が広がって、俺は思わず鼻に皺を寄せた。うわーっ、酸っぱい! でも美味しい!

「酸っぱいか? ユウリはこれが好きなんだ。収穫したばかりのものが一番うまいから、持っていってやろうと思ってな」

 そう言って笑う時、バルド様はほんとにユウリが好きなんだなあって思う。俺達も大好きだけど、バルド様のそれは俺達の好きとは違うんだ。忙しいのにわざわざユウリのために自分で収穫に来ちゃうぐらい、バルド様はユウリに夢中なんだよね。

「あ、クロ! ここにいた!」

 呼ばれて振り向くと、そこには腰に手を当てて怒っているユウリがいた。あれ? 何で怒ってるの?

「ベッドのシーツぐちゃぐちゃにしたでしょう。シーツに肉球の跡がついてましたよ。事実確認のためにシロの肉球と照合した結果、シロはシロだと分かりました。犯人はあなたです!」

 びしっと指を突きつけられ、まずいと耳を下げる。部屋の中に虫が入ってきて、捕まえようとして暴れたの忘れてた。

「ユウリ、ちょうどよかった。クロを叱るのは後にして、せっかくだからこれを食べてみてくれ」

 バルド様がユウリに声をかけると、ユウリは素直にバルド様に近づいた。

「ほら、口を開けろ」

「……ん、酸っぱいっ! でもこれすごくおいしいですね」

「そうだろう? 俺にも一つくれ」

 食べさせ合っている仲睦まじい二人を眺めていると、バルド様の手がユウリに見えないところでぱたぱたと動く。どうやら逃がしてくれるらしい。これは優しさじゃなくて二人の時間を邪魔されたくないからだって分かってるけど、ありがたく逃げさせてもらう。

「あ、こら! クロ!」

「あいつは後で俺が叱っておくから、今は俺に集中しろ。せっかく会えたんだぞ? くちづけぐらいしてくれてもいいだろう?」

「え? ちょ、バルド、ここをどこだと思って……っ」

「どこでも構わない。お前が伴侶だということは皆が知っている。何を恥ずかしがることがあるんだ」

「や、そういう問題じゃ……っ、んん、んぅ……っ、ゃ」

 それじゃあどうぞごゆっくり。

 俺はクロ。空気の読める銀狼だ。

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