第14話

 なんとかガッドのおやつを奪取することに成功した俺は、戦利品であるプリンを食べる場所を探して彷徨っていた。食堂で食っても良かったが、もしガッドに見つかったら面倒なことになりそうだったからな。


「にしてもすごかったな、エルピナ」


 実際に怒っている姿は見なかったが、イリナのあの怯え具合から察するに怒らせたら相当怖いんだろう。俺の中の怒らせちゃいけない人物リストに一人追加だな。

 ちなみに、リストの頭にはうちの母親が入っている。


「ん?」


 廊下を歩いていると、突き当りで見慣れたメイド服が窓を拭いていた。黒髪ショートのロングメイド服、あれはエレナだ。姉のイリナと後ろ姿が瓜二つだから、メイド服の丈で判断するしかない。


「よぉエレナ。お疲れ」

「へ?あ、ゲド様!」


 エレナは俺の姿を認めると、窓を拭く手を止めてこちらに向き直り丁寧に頭を下げた。前々から思ってたが、さっきまで話してた姉のイリナとはずいぶん対照的だな。


「窓拭きか?」

「はい、姉さま……じゃなかった、メイド長に全ての窓を拭くように言われています」

「全部の窓か!?大変だな、ただでさえ窓デカいのにこの城の全部って」

「いえ、それが私のお仕事ですから」

「お仕事ねぇ」


 俺だったら絶対やりたくないお仕事だな。


「ゲド様はお散歩ですか?」

「あぁ、何か食おうと思ったんだが、ガッドにもう少しで昼になるからって言われてな。しばらく時間潰そうと思ってよ」

「そうなんですか」

「あぁ」


 俺の言葉に相槌を打った後、エレナは黙りこんでしまう。

 あれ?会話止まった?まずいな、何話していいか分からん。そもそもそんなにまだ付き合い長くないし。イリナの方は自分からグイグイくるから別に困らなかったんだが、こう黙ってられるとどうしていいか分からんな。

 さてどうするか。とりあえず何か話題振ってみるか?


「あの」「そういやさ」

「「え?」」


 被った……くそっ、よりによって切り出しのところで被っちまったよ。エレナも出鼻挫かれたっぽくてオドオドしてるし、困ったな。


「あの、ゲド様お先に」

「あ、そ、そう?じゃあ、そうだな……」


 やべぇよ、被った衝撃で振ろうとしてた話題が頭から飛んじまった。

 どうする?どうする?とりあえず身近なもんを話題に……。


「その窓結構高いけど、上まで拭けんのか?」


 俺はエレナが吹いていた窓を指さして訊ねてみた。

 魔王城の窓はかなり縦長な作りで、エレナの身長じゃおそらく半分も届かない。まさか半分だけ拭いて終わりにするってわけにもいかんだろうし、踏み台でも持ってくるのかな?


「それでしたら問題ありません。こうやって!」

「え?おぉ!」


 俺の見ている目の前でエレナは膝を曲げると身長の何倍もの高さまで飛び上がった。今の高さなら窓の一番上まで届きそうだ。


「すげぇなエレナ」

「え、えへへ。猫人は跳躍が得意なんです」


 照れ笑いする姿を見てると本当にイリナとは対照的だと思う。イリナだったら、ここで胸張って威張ってるところだ。しかし、なるほど。そういえばイリナとエレナの母親は猫人だって言ってたな。猫だから高い所はお手の物ってか。

 ただなぁ、照れてるところ悪いんだが、ちょっとばかし不味かったよなぁ。

 いや、一人だったら大丈夫だったんだよ?だけど、目の前に俺がいるしなぁ。

 正確には男がいるときは止めといた方がいいよなぁ。


「エレナ、今回は仕方ないんだが、次からはスカート押さえながら飛んだ方が良いぞ?」

「え?」

「あの……丸見えだったから」

「――ッ!」


 あぁ……顔押さえてうずくまっちまった。言わなきゃよかったか?


「ごめんなさいゲド様、汚いもの見せてごめんなさい」

「大丈夫だ!全然汚くなんてなかったぞ!?」

「でも、でも……うわぁぁぁぁぁ!」


 やべぇ!泣き出しちまった!これ俺が悪い……んだよなぁ?

 はぁ~、流石の俺も年下の女の子泣かすなんて気分悪い。どうすりゃ良いんだ? とりあえずフォローしとくか。


「全然汚くない!純白で、ちゃんと洗濯してんだな!?偉いぞ?」

「う……わぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 おぉう。さらに深刻になっちまった……。

 わからねぇ、なんて言ったら泣き止んでくれるんだ?

 誰か、誰かいないのか?いや待て、誰かにこれを見られたらなんて思われる?特にスラ公なんかに見られた日にゃ――ダメだ!誰も来るな!いや、だけど俺だけでこの状況を打開できるのか!?


「ううう、どうしよう……」

「なんだ!?」


 何か気がかりなことがあるのか?俺に出来ることなら何でもしてやる!だから頼むから泣き止んでくれ!


「もうお嫁に行けない」

「は?」

「こんな恥ずかしい姿見られたらもうお嫁に行けないよ」

「そんなことか!大丈夫!そうなったら俺がもらってやる!」

「え?」

「なんも心配するな!俺が嫁にもらってやる!約束だ!」

「でも、ゲド様にはメルディア様が」

「大丈夫だって!ディアには俺が言うから!」


 だからもう泣き止んでくれ!そうじゃないと俺の方が耐えられん!


「だから、な?俺以外誰も見てないし、俺が嫁にもらってやるから全部解決だろ?もう泣くの止めろって」

「ヒック、うん……」


 よかった。少しずつだが声が元に戻って来てる。これで一安心だ。

 にしても親切のつもりで指摘してやったんだが、やっぱり子供ってのは難しいもんだな……。


「ゲド様……ごめんなさい」

「いや、別に謝んなくて良いよ。俺の方ももう少し言い方ってもんがあっただろうし。それより――なんだ?」


 何か今、変な音が?

 何かの空気が抜けるような……


「エレナ、今変な音が――どうした!?」


 なぜか今度はエレナの顔が真っ赤になっている。今度は何があったんだ!?


「……お腹の音」

「は?」

「今の、私のお腹の音です……。泣いたから、お腹減っちゃったみたいで……ごめんなさい」

「なんだそんなことかよ~」


 ビックリした。またなんかやらかしたかと思ったぜ。


「そういうことなら、ほれ、これやるよ」


 俺はさっき手に入れたプリンを差し出した。どっかで食おうと思ってたが、考えてみりゃまだそんなに腹減ってないし、それにまあ……なんだ、罪滅ぼしってわけじゃないけどさ。


「え、そんな、ゲド様のものを頂くわけには……。それに、まだお仕事中だし」

「良いから良いから!俺が許す!その代わり今食っちまえ。俺が近くにいた方が説明しやすいだろ」


 流石にさっきのあれ見ちまうと、姉貴と同じ轍踏ませるのは気の毒だからな。仮にエルピナがここに来ても俺がいれば説明できるだろ。イリナの時は咄嗟だったのと気迫負けして何も出来なかったけど……。


「そ、それじゃあ、いただきます」


 エレナが一緒に渡したスプーンでプリンを口に運ぶ。そして、下を俯いたまま一言も喋ろうとしない。


「エレナ?どうだ?」


 無言が無性に怖くなってきて、俺は感想を聞いてみた。

 

「……ほぁ~」


 どうやら俺の心配は徒労に終わったらしい。大事そうに二口目を口に運ぶと再び至福の顔。

 おうおう、幸せそうな顔しちゃって。イリナといい、そんなに美味いのかね、ガットの作るプリンは?

 エレナは脇目も振らずプリンに夢中だ。メイド服着てしっかり仕事してるが、こういう所はまだ子供なんだな。

 ん?待てよ、モンスターだから見た目と実年齢は違うもんなのか?


「うふふ」

「美味いかエレナ?」

「うん!ありがとうお兄ちゃん!」

「うえ?お兄?」

「――あ!ご、ごめんなさいゲド様!」


 どうやら咄嗟に出ちまったようだが、それをよほど不味いと感じたのか、エレナがまた深々と頭を下げる。あらら、また耳まで真っ赤にしてるよこの子は。仕方ねぇなぁ。


「別にいいよお兄ちゃんで。最初に言っただろ、魔王様って呼ぶなって。俺のことは様付けいらんし、呼びやすいように呼んだらいい。それに、敬語もいらんしな」


 肩っ苦しいの嫌いなんだよなぁ。俺は楽出来りゃそれでいいし。

 それに、そんなことに労力割くぐらいなら他のことに使えって思うわ。


「えっと……それじゃあ、お兄ちゃんにもらったプリン、すごく美味しいよ」

「そいつはよかった。誰かに見られる前にさっさと食っちまえ」

「うん!」


 それから俺はエレナがプリンを食べ終わるまで横に腰かけて待った。プリンを口に運ぶたびに満面の笑みを浮かべるエレナの顔は本当に幸せそうで、見てて飽きないもんだ。

 お兄ちゃん呼びのせいもあるかもしれないが、まるで妹が出来たみたいだ――いかんいかん。俺までラグエルみたいになっちまう。


「ごちそうさまでした!」

「お、綺麗に食べて偉い偉い」

「えへへ」


 俺が頭を撫でてやるとエレナは照れくさそうに目をつむるが、されるがままになっていた。こういう所はなんか猫っぽいな。


「じゃあ残りの仕事頑張れよ」


 俺はエレナからスプーンとプリンの殻を受け取って、散歩を再開した。

 それにしてもこの城は本当に部屋が多い。未だに何の部屋か分からないものがいくつかあるんだが、全部の部屋を確認して回ったらおそらく日が暮れちまうだろう。


「お散歩ですか、ゲド様」

「ん?おぉ、エルピナ」


 背後から声を掛けられて振り返ってみれば、そこにはエルピナが立っていた。姿勢正しく立ち、湛えた笑みはとても先ほどの迫力の持ち主と同一人物とは思えない。


「昼にはまだ少し早いみたいだからな。この城の中で知らない場所もあるし、確認がてら、な」

「そうでございましたか。ですが一つご注意ください。ドアに鎌のマークがついている場所は立ち入らない方がよろしいかと」

「え?なんで?」

「そのマークは『命の危険が及ぶ可能性あり』の印でして。室内に猛毒が充満しているもの、即死トラップが所狭しと仕掛けてあるもの、中にはこことは違う世界に繋がっている部屋などもございます」


 お、おぉう。涼しい顔で言ってるがなんでそんな部屋が普通にあるんだよ?あれか?魔王城だからか?


「すげぇな。流石魔王城。あれか?侵入者対策とか?」

「いえ、先代様の御祖父様のご趣味だそうで」

「へ、へぇ~」


 ずいぶんとぶっ飛んだ爺様だな。まあ、あの生首もぶっ飛んでるとこあるし、血筋ってやつか?


「あ、ところでイリナは?」

「あの子でしたら、今は貯蔵庫の棚卸をしております。劇薬などの危険物もありますので、先ほどのようなふざけた態度で挑まぬよう、固く言いつけておきました」


 固く、の部分にアクセントを置いていたんだが、イリナは無事なんだろうか?


「そうか。ところでエルピナ」

「はい、なんでございましょう?」

「プリン美味かった?」

「えぇ、とても――ッ!な、なぜそれを!?」

「ここ、ここ」


 俺はそう言いながら自分の左頬を指さした。

 エルピナはすぐにその意味に気が付き、ハンカチで自分の頬、俺が指さした個所と同じ所をふき取った。


「いや~、エルピナも甘いものには目が無いんだな」


 ニヤニヤしながら見ているとエルピナが下を俯いて耳まで真っ赤にしてしまう。頭の蛇まで申し訳なさそうに下を向いているのが面白い。今まで完璧に見えたエルピナにも可愛い所があるんだな。


「ゲ、ゲド様」

「ん~?何?」


 消え入りそうな声が何を言いたいのかはある程度想像できるんだが、俺は何も言わない。


「こ、このことは何卒ご内密に。特に、妹たちには……」

「どうしよっかなぁ?」


 敢えてもったいぶる様な言い方をしてみた。

 いや、別にエルピナが嫌いってわけじゃないんだぜ?ただ、いつも完璧っぽい奴の弱点を見つけて、ちょっと突いてみたくなったってところだ。


「何卒!何卒!」


 最敬礼より深く頭を下げた姿を見て、俺の嗜虐心は十分満たされた。そろそろ勘弁してやるか。


「冗談、冗談だよ。黙っててやるから安心しろって」

「あ、ありがとうごじゃいましゅ」


 目は見えないんだが、ちょっと涙声になっていて可哀そうなことしたかもしれん。うん、少しだけ反省。

 それからエルピナは何度も振り返っては俺に頭を下げてその場を立ち去った。中々に珍しいものを見られたんじゃないかと思う。

 さて、次は庭にでも行ってみるかね。


 * * *


 魔王城には庭がある。南側の城門の反対側、城を挟んだ城壁との間のスペースが全て庭になっている。そこらの城にあるような草木が植えられた豪華な庭というわけじゃないが、花壇もあるし、大人でも十分走り回るスペースはある。

 まあ、花壇に食人植物が大量に植えてあるあたりは魔王城らしいと言えばらしいだろう。

 そんな愉快な庭で、俺はあの男を見つけた。


「三百二十八、三百二十九……」


 その男は、身の丈ほどの鉄の塊を両手で持ち、頭の上に掲げるように上げ下げしている。その空気を切る音が明らかに素振りのそれではないので、おそらく相当重いんだろう。

 まったく、たまの休みぐらいゆっくりすればいいのに。


「おいラグエル」

「三百三十五、三百三十六」

「お~い」

「三百三十七、三百三十八」


 この野郎、魔王様をシカトするとは良い度胸だ。どれ、ちょっくらいたずらしてやるか。

 俺はゆっくりとラグエルの背後に近づき、その耳元に顔を近づけた。


「ふぅ~」

「あふぅ――ダァォォォォォ!?」


 俺の耳フー攻撃にラグエルが脱力する。ここまでは予想通り。だが、まさかその結果、持ち上げていた鉄の塊を落とすとは思わなかった。しかも、自分の足の上に。

 その場でのた打ち回るラグエルのその姿には魔王選抜の時のような優雅な姿はこれっぽちも無い。

 いや、なんか、ごめんラグエル。


「大丈夫か~?ラグエル?」


 俺の問いにラグエルは右掌を開いて前に出し意思表示する。ちょっと待てと。とてもじゃないがまだ声が出せないんだろう。涙目だし。


「ゲ、ゲド殿、何するんだ?」

「お前が無視するからだろ~」

「精神を乱さないように集中していたのだ!」


 お、ちょっと怒ってる。まあ無理もないか。かなり痛そうだったし。だが、俺としてはイケメンが痛がってるのが見えてちょっとうれしかったな。


「ふ、俺の耳フーで乱れるとは、まだまだだな。しかも、あの程度の痛みで取り乱すとは」

「――っ!私もまだ修行が足りないのか……」


 ラグエルはいつものように眉間にしわを寄せて考え込んじまう。

 いや、正直どれほど痛かったのかは分からんけどね?

 にしてもコイツ、相変わらずくそ真面目だよな。もうちょっと軽く受け流すとか出来ないのかね。


「俺が休みなんだから、お前も休みゃいいのに」

「そういうわけにはいかん。私はゲド殿の側近だ。有事の際にすぐに動けるようにしておかなければ。それに、メルディア殿を下したとはいえ、四天王はまだ残っている。いつ襲われるか分からないのだ」

「ふ~ん。四天王ってのはそんなに恐ろしいもんかね?」


 ディアのせいもあるかもしれないが、そこまで四天王が恐ろしい相手に思えなくなってきている。案外、話せばわかるんじゃね?


「皆只者じゃない。鉄よりも固い甲殻を持ち、一切の攻撃を受け付けないと言う、昆虫族の王、ゾロア。神速の異名を持つ剣技の持ち主、ディラハン族の長、ランスロット。四天王随一の戦力を有し、それを自由自在に操る女帝、セイレーン族のイザベラ」

「ずいぶん詳しいな、調べたのか?」

「四天王の一人に、因縁浅からぬ奴がいてな」


 よほどその相手が気に食わないのか、ラグエルの顔は歪み、殺気だけでその相手を殺せるんじゃないかというほどだった。何があったか知らないが、相当恨みがあるんだろう。


「アイツは――」

「あ、言わなくていいぞ」

「え?いや、しかし」

「大丈夫。特に興味ないから」


 野郎の過去とか心底どうでも良い。それに、何があろうと四天王は引き入れるつもりだし。


「そ、そうか。そういうことなら……。では、そろそろ鍛錬に戻るとするか」

「飽きないねぇお前も」

「飽きる飽きないの問題ではないのだ」

「なんなら俺が精神鍛錬に付き合ってやろうか?」

「いらん!」


 んもう、シャレが通じないんだから。

 ぷりぷり怒りながら素振りに戻ったラグエルと別れ、俺は城の中へと戻った。そろそろ昼飯が出来る頃だろう。


 * * *


 昼飯を取り終わり、部屋に部屋に戻った俺はこの世の幸せを謳歌していた。


「飯食ってすぐ寝ていいとか、魔王最高だな~」


 ベッドに寝っ転がり天井を仰ぎ見る。

 考えてみればここ数日は働き過ぎた。これから魔王としての責務を果たすためにも、ここで心身ともにリフレッシュしなきゃな。

 そもそもさぁ、いきなり魔王の仕事全部俺にやれってのが無理な話なんだよ。普通、前任者がもうちょっとフォローするでしょ。研修期間っつうの?そういうのがあって然りじゃないですかね。

まったく……少しは……

 …

 ……

 ………


「うあ?あれ?寝てた?」


 やべ、寝落ちしてたのか。どれくらい寝てた?時計、時計……マジかよ、二十二時って……流石に寝過ぎだろ。このまま朝まで寝なおすか……いや、汗を流さないと気持ち悪いな。


「風呂入るか」


 部屋を出て地下へと向かう階段を下りる。自分の部屋にも風呂はあるが、なんとなく、今日はデカい風呂に入りたい気分だ。

 誰が作ったのか知らないが、魔王城には地下に大浴場がある。ただでさえ広い魔王城の部屋を三つほどぶち抜いて作った位の広さの風呂は疲れを癒すにはもってこいだ。


「あれ?先客?」


 脱衣所で服を脱ごうと思っていたら、浴室の方から音が聞こえてきた。こんな時間に誰かまだ入ってるのか?

 ……もしかして、女の誰か?うへへ。

 仕方ない。これは仕方ない。誰かが入ってるなんて思わなかったんだ。だから俺が入ってしまうのは仕方がないことなんだ。えへ。

 俺は逸る気持ちを抑え、服を脱いだ。 

 そして、浴室へと続くドアノブに手を掛けようとした瞬間。


「あ」


 ドアが開いた。

 湯気に包まれて現れた体は、無駄な贅肉などない良く鍛えられた体だった。風呂上がりの瑞々しい肌は張りがあり、露わになった胸や腹には染みひとつない。

 俺を認めたその目は、真っ直ぐにこちらを見ると呟いた。

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