第11話

「なんだ、そんなにこれが大事だったのか?」


 メルディアが片足を上げると、そこにはナイフの変わり果てた姿があった。

 刃が粉々になり、立派だった装飾は見るも無残な残骸へと成り果てている。


「ナイフゥゥゥゥゥ!」


 儚く散った奴の残骸に俺は叫ぶ。

 脳裏に浮かぶのは、昨夜聞いた奴の夢。


 ――明日の戦いに生き残ったら、俺、宝物庫の杯ちゃんに告白するんだ


 その夢は叶うことなく散って行った。


「よくもナイフを……」


 俺は両の拳を握りしめた。その右手にはもうアイツの感触はない。

 もう血を欲しがる声に悩まされることもない。その声の主は目の前で物言わぬ残骸に成り果てた。

 それは喜ばしいことだ。だが何かが違う。あの苦痛から解放されたというのに、なんだこの感情は?


 ――そうだ、俺は言わなければならない。


「あのナイフ高値で売れそうだったのに!」


 ちなみに、ナイフが恋焦がれていた杯は、俺が持ち出した後に他の宝と一緒に何処かへバラ撒かれてしまっている。


「どうしてくれんだお前!残ったのあのナイフだけだったんだぞ!?弁償しろよな!?」

『知るか!そもそもお前はここで私に負けて殺されるんだ!金の心配など必要ないだろう』

「うるせぇ!俺の金だぞ!?」

『金?金……だと?私など眼中にない、か。いいだろう!私を舐めたことを後悔させてやる!』

「はぁ?」


 なんだかよく分からんが、メルディアが一層ヤル気になってしまった。

 こっちとしては、金にならない上に命の危機にまで瀕しているので一秒でも早く止めてしまいたいのだが。


『丸焦げにしてやる!』


 メルディアが再び飛び上がり、口が赤く発光する。

 が、今度は先ほどまでとは違う、火球が生成される速度が先ほどとは比べ物にならないくらい早いのだ。


『死ね!ゲド・フリーゲス!』


 初めて受けた攻撃の半分ほどの大きさの火球がこちらに向かって落ちてくる。しかし、半分とは言ってもただの人間にとっては致命傷だ。


「ヤバいだろオォォォォォォォ!」


 火球の雨が降り注ぐ中、俺は血の滲む体を叱咤して走った。

 火球が地面に落下し、その衝撃で地面が抉れ、火が燻っている。

 なぜ俺がこんな目に遭わなきゃならん?魔王になって楽したいと思っていただけなのに!

 

「はぁはぁはぁ、ん?」


 全力疾走する俺の視界の端に、一つの人影が写った。

 あれはメルディアのそばにいた側近か。一人安全なところに離れて試合観戦とは良いご身分だ。

 しかもこっち見て笑ってやがる――よし、決めた。 


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 俺は方向転換するとさらにスピードを上げた。

 その先にいるのはもちろん


「き、貴様なぜこっちにくる!?」


 あの側近だ。

 ふふふ、いきなり俺が自分の方へ向かってくるから目を白黒させてやがる。俺を笑った罰だ。あ、待て!逃がすかよ!

 側近に追いついた俺は、真横を並走するように速度を調整する。


「よぉ!お疲れ!」


 我ながら爽やかな笑顔で語りかけた。う~ん、なんて好青年なんだ俺!おっと、なぜか眉間に皺が寄ってるな?女の子がそれじゃあモテないぞ?


「き、貴様!なぜ私を追いかけてくる!?」

「旅は道連れ世は情けっていうだろ?――っていうか、死なば諸共ってやつだ!」

「一人で地獄でも何でも旅してろ!」

「断る!タダで死んでたまるか!死ぬときは一人でも多く道連れにしてやる!」

「このクズ野郎!」

「うるせぇ!クズだろうがなんだろうが知ったことか!こっちは生き死にかかってんだよ!利用できるものは全部利用する。お前もせいぜい役に立ってもらうぜ!」


 そう、俺はただ単にコイツに嫌がらせするために一緒に走ってるわけじゃない。それなりの考えがあってのことだ。

 コイツはあのメルディアの側近、近くにいれば、巻き添えを恐れてメルディアが攻撃を躊躇するかもしれんからな。

 そ~ら、だんだんと火球の数が減って……こねぇな?


「おい!近くにお前がいるのにに全く攻撃の手が緩まねぇんだけど!?」

「馬鹿め!メルディア様はあの姿になられると少々頭の回転が遅くなるのだ!」


 ようは俺を狙うのに一生懸命になり過ぎて味方への被害を考えられていない、と。

 ちっ、作戦失敗か……いや、待てよ。


「じゃあ作戦変更と行くか!」

「ハッ!何を考えているか知らんが、貴様に敵うわけなかろう!」

「おいメルディア!」


 俺は振り返りつつ上空のメルディアに声を張り上げる。


「コイツ、お前のことバカだってよ!」

「――ッ!?」


 言ってやった言ってやった!しかもご丁寧に側近を指差しながら。これでどんなアホでも気づくだろう!?

 どれどれ?


『………』


 よっしゃぁ!心なしか側近側に火球の量が増えた気がする!


「この人でなしィィィィィ!」


 こんなことをしても特に事態が好転するわけではないのは分かっていた。

 だが、それでも俺は叫ばずにはいられなかったんだ。

 なぜなら――


「うるせぇ!お前、俺のこと笑って見てただろ!?俺は根に持つタイプなんだよ!せいぜい丸焦げにならないように走るこったな!」

「貴様ァァァァァァ!」


 一度復讐すると決めたなら徹底して最後までやり遂げる。

 恨みと貸した金の額だけは絶対忘れないんだよね、俺。


「ッいて!」


 何か左足に鋭い痛みが走った。石でも踏んづけたか?

 確認しようにもこの火球の雨の中じゃゆっくりと足の裏を見る余裕は無い。が、足が痛くて走り辛いのも事実だ。

 こうなったら――


「おいメルディア!コイツ今度はお前の火球がヘッポコだって言ってんぞ!」

「なッ!?貴様でたらめを――」

「ヘッポコな上に当たらないから怖くもなんともないってさ!悔しかったら当ててみろって言ってんぞ!」

「メルディア様!敵の甘言などに惑わされないでください!私は貴方様の忠臣、確かに少しチョロイとは思っておりますがヘッポコなどと――あぁ!増えてる!火球増えてる!」


 しめた!いつの間にかこっちへの火球は全て側近へと向いている。

 側近はなんとかメルディアの誤解を解こうと必死になっているが、これでしばらくは時間が稼げるだろう。

 俺は少しずつ距離を開け、メルディアたちと十分な距離を取ると足を止める。


「う~、いてぇ、一体何踏んづけたんだ?」


 痛みが走る左足を持ち上げてみると、足の裏に何か小さい破片が刺さっている。

 引き抜いてみれば、それは欠けた刃、おそらくあのナイフの破片だろう。


「なんだよ、バラバラになっても俺に迷惑かけやがって」


 怒りにまかせてその破片を放り投げようと思ったが、俺はあることを思いついてその破片を投げる手を止めた。 

 辺りを見回して目的の物を探してみる。あった、あそこだ。

 目当てのものを見つけた俺は速足でその場へ向かった。しゃがみ込み、いくつかあるものの中から目当てのものを拾い上げる。

 それは、比較的大きなナイフの破片。もうあのナイフの声は聞こえないが、切れ味は残っているだろう。とりあえず、丸腰よりもマシだ。


『何かと思えば、まだそのナイフに執着しているのか』

「お?終わったのか?」


 俺が振り返ると、そこにはメルディアとあの側近の姿があった。どうやら誤解は解けたらしい。


『当然だ。私は竜人の長、長は強く、そして寛大でなければ』

「そいつ、泣いてねぇか?」


 見れば、側近は丸焦げ……とまではいかないが、服は焦げ、髪の毛は縮れて煙を上げている。よほど恐ろしい目に遭ったのか、腕で涙を拭い半ベソをかいている。


『……長は強くなければならんのだ』

「おい、なぜ目を逸らす?」

『とにかく、そろそろお前との決着を着けさせて――あ、お前何してる!?』

「まったく、可哀そうに。ほれ、これで涙拭けよ」


 俺は側近に近づいてポケットから出したハンカチを差し出した。

 その行動が予想外だったのか、側近は驚きで目を見開いていたが、差し出されたハンカチに恐る恐る手を伸ばしてきた。

 もしかすると、恐ろしい目に遭って心が弱り目の前の優しさに絆(ほだ)されたのかもしれない。

 俺にだって、泣いている女に優しくするくらいの心の余裕はあるのだ。

 ――ま、もちろん打算があってのことだけどな!


「よっしゃぁ!人質確保ォ!」


 俺は相手が伸ばしてきた手を掴むと、そのまま自分の方へと手繰り寄せハンカチに隠していたナイフを側近の喉へと向けた。


「コイツの命が惜しかったら俺を解放しろ!」

『ぐっ』


 メルディアが躊躇するのを見て俺は作戦の成功を確信した。

 ふふふ、こいつも所詮一人の人間よのう。いや、人間じゃなくて竜人か?まあ、なんでもいいや。とにかく、人質が効果的なぐらいには心の隙があるってこった。

 だが、俺は大事なことを忘れていた。

 人質に取った相手も竜人なのだ。


「舐めるなよ?」

「あ?え?あれぇぇぇ!?」


 背後に回ったはずの俺は気付けば宙を舞い、そのまま背中を地面にしこたまぶつけてしまったのだった。背中から落下したために受け身が取れず、あまりの痛みに地面を転げまわる。


「ただの人間に抑え込まれるほど竜人は弱くはない。さあ、メルディア様、止めを!」

『え?あ、うん』


 メルディア自身もこの展開は予想していなかったのか、多少戸惑ってはいたが、大きな口を開き、その中に火球を作り出し始めた。


「ちょ!待て!」


 人質作戦も失敗、もはや完全に打つ手なしとなってしまった。

 逃げようにも側近が俺の肩を踏みつけているために動くことが出来ない。


「お、おい!このままじゃお前も丸焦げになるぞ!?」

「ふん、私は竜人だ。炎など恐れるに足らん」

「頭爆発して半べそかいてたのに!?」

「う、うるさい!とにかく私より先に貴様が丸焦げだ!」

 

 こんなことしてる間も火球はどんどん大きくなる。どうやら、完全にトドメを刺すつもりだ。

 万事休す、ついにやられてしまうのか俺は!?


『さらばだ、ゲド・フリーゲス!』


 その声と共に火球がこちらへと放たれようとしたまさにその時――


「待て!」


 彼方から聞き覚えのある声が飛び込んできた。

 踏みつけられたままその声の方へ視線を向ければ、そこでは見覚えのある金髪を風に揺らし、緑の瞳が真っ直ぐにこちらを見ていた。


『なんだお前?』

「魔王ゲド・フリーゲスの側近、ラグエル」

「同じく、スライムのス――」

『側近だと!?』


 ラグエルの足元で名乗ろうとしていたスラ公の声を遮って、メルディアが驚きの声を上げる。

 ふふん、俺の味方が来て焦ってるな?いいぞ!やっちまえラグエル!あとついでにスラ公!


「ちょ、俺まだ名乗り途中――」

「悪いが、我が主は返してもらう」

『何を言ってる!?たった二人でノコノコ現れてタダで済むと思っているのか!?』

「思っている」


 その言葉に合わせるように、広場の向こう、建物の方から爆発音と煙が起こった。


『なんだ!?』

「流石だな」

『お前たち何をした!?』

「私たちじゃないさ」


 不敵に笑ったラグエルの視線の先、広場の入口からさらに一つの人影が現れた。それは、黒いスーツに身を包み、銀の肌に日を反射しながらゆっくりとこちらに歩いてくる。


「ラグエル様、スライム様、城内の制圧、完了いたしました」

「ありがとうサバスチャン殿。流石の手際だな」

「恐れ入ります」


 サバスチャンは恭しく頭を下げると、今度は上空のメルディアに視線を移した。


「竜人の方たちは女性ばかりの種族だと記憶しております。私も男の端くれ、多少手荒な真似は致しましたが、城内の方々は皆様ご無事です。ご安心を」


 そう言って一礼すると、ラグエルの半歩後ろへと下がって行った。まるで主に紅茶を注いだ後の執事のような振る舞いだ。


「聞いた通りだ。この城は我々が占拠した。大人しく降伏しろ」

『ぐっ……』

「メルディア様!?」


 まさに苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべながら人の姿へと戻るメルディアに、側近が驚きの声を上げる。


「メルディア様いけません!こやつ等に従うなど!我々はまだ!」

「分かっている。しかし、一族の長として、皆を危険に晒すわけにはいかないんだ。……その男を放してやれ」


 その言葉を聞いて、側近が俺を踏んでいた足を上げた。

 俺は踏まれていた方の肩をぐるぐる回して無事を確かめる。

 あぁ、痛かった。ったく、冗談じゃねぇよ。


「ゲドさん生きて――ますね、ちっ」

「おっせぇんだよお前ら!俺が死んだらどうするつもりだったんだ!」


 ホント、生きてるのが不思議なくらいだ。

 もう少し早く助けに来いっての。気が利かねぇな。

 

「助けてもらっといてコレだよ。腕の一本でも捥(も)げてりゃ良かったのに」

「申し訳ございません、ゲド様。先代様からこの場所を聞いたのち、急いで向かったのですが」


 腕の無事を確かめ、俺はメルディアの方へと近づいた。

 コイツにもたっぷり礼をしなくちゃいけないからな。


「さ~て、形勢逆転だ。どうしてくれようか?」

「甘く――見るなよ!」

「――ッ!」


 不意を突いて、メルディアが後ろへと飛び退いた。

 何しようってんだこの女?お、俺が折った剣の切っ先を拾って……自分の喉に切っ先を突きつけた?


「人間などの言いなりになるくらいならここで自ら命を絶つ!」

「メルディア様!?」

「許せ。お前たちの長として、例え城は奪われたとしても誇りまでは奪わせはしない」

「そんなことして何になるんすか!?」

「何もなりはしないさ。これは矜持の問題だ」

「メルディア様!ならば私も!」

「ダメだ!お前は生き残り、残りの者たちを導け!」


 側近を制止し、メルディアが叫ぶ。

 なんか、劇の一部みたいな流れだな?


「皆を頼んだぞ」

「――ッ!承知……いたしました」

 

 側近がその場に立ち止って拳を握りしめている。

 なんだこれ?何勝手に盛り上がってんの?


「すまないな――さらばだ!」


 なぜか微笑んだメルディアは、剣を高く掲げ、そのまま喉元へと突き刺すべく一気に腕を動かした。

 お~、クライマックスってやつですか。


「くだらねぇ」


 その声にメルディアの手が止まる。

 だが、そうは上手くいかないんだなぁ。

 俺は頭をポリポリと掻きながら、メルディアに近づいた。


「ゲド・フリーゲス!お前今なんと!?」


 うわ、すげぇ睨んでくるよ。そんなに死ぬの邪魔されたのが気に食わんかね?だけど、こっちとしちゃ死なれちゃこまるんだよなぁ。


「くだらねぇって言ったんだよ。死ぬだけ無駄だ」

「何!?」

「まず第一に、お前が死んでこの側近が残ってもここの奴等の運命は変わらない。俺に盾突いたんだ。命があると思うなよ?」

「――ッ貴様!」

「第二に、死んでも無駄だ。蘇生魔法で何回でも生き返らせる」


 この言葉がトドメになったのか、メルディアは持っていた剣を地面に落とし、ガックリと両膝を地面についた。


「生き恥を……晒せと言うのか……」

「そうなるなぁ?」


 さて、これで準備は万端整った。

 あとは……


「私は四天王の面汚し。生き長らえては、他の四天王に笑われてしまう」


 ま、笑われるで済みゃいいけどな。

 モンスターのことはよく分からんけど、功を焦って先走って、敗れた上に敵に情けをかけられて生き延びたとあっちゃ、後ろ指を指されても仕方がない。四天王の地位をはく奪、最悪、命を狙われることもあるかもしれないしな。

 ――と、あの生首魔王の時だったらなっただろうな。

 だけど、今の魔王は俺だ。


「心配すんな。すぐに他の奴も笑えなくなる。なんせ、お前と同じことになるんだからな」

「何を――お前!?」


 俺はしゃがみこんでメルディアの真正面まで顔を持って行った。


「四天王は全部俺のものにする。どんな手を使ってもな」

「な、何を言っている!?」

「言ったとおりだ。手始めに、お前は俺のものになれ」


 青い瞳をまっすぐに見据えて、腕を取る。

 コイツ、あんな軽々剣を振り回してたくせに結構華奢な腕してんだな。


「お、お前!いいいい一体ななな何を考えってててててて!?」


 お?何狼狽えてんだ?まあいいや。この後は確か……

 俺はメルディアの両手を掴むとさらに続けた。


「お前(とお前の部下の戦力)が欲しい。戦ってる時に気付いたんだ(こいつチョロイって)。俺は心からお前のことを(すげぇチョロイと)思ってる。だから、お前(っていうか、美人の竜人全部)は俺のものになれ」


 メルディアの顔が下からどんどん赤くなって行き、ついに顔全て真っ赤に染まってしまった。

 ぶっ倒れちまうんじゃないかと思ったが、焦点は定まってる――っていうか、まっすぐこっち見てるし、たぶん大丈夫だろう。 


「あ、あの、わ、私は……」


 なんだ?言いたいことあるならハッキリ言やいいのに。さっきまでの勢いはどこ行っちまったんだ?

 まあいいか。そろそろ仕上げだな。

 俺はメルディアを引き寄せると、抱きしめながら耳元に囁いた。


「返事は『はい』だけだ」

「……はい」


 よし!これで四天王の一角を俺の手中に収めたぞ!


「さて、終わったことだし、城に戻るか。メルディア、お前も一緒に来い」


 一仕事終えた俺は立ち上がってから伸びをして、メルディアへと視線を落とした。

 メルディアはなぜか下を俯いたままでこちらを見ようとしない。


「メルディア?」

「……ディア」

「あん?」

「親しい者にはディアと呼んでほしい」


 こっちを見上げたメ……ディアの目が艶めいて見えたが、風邪でも引いたのかな?


「お、おう、じゃあディア、お前はうちの城に来い。部下は連れてきても良いけど、どうする?」

「私一人で行こう。嫁ぎ先に大勢で押しかけては迷惑だろう」

「あ?あぁ、うん?」


 なんかよく分からんが、昔シャーリーから借りた本の男の真似したら本当に従順になったな。すげぇな女向け本の男って。

 まあとにかく、これでこの城の戦力は俺のもんだろ。魔王がダルくなったらここを避難所にしよう。

 さっきサバスチャンが言ってたが竜人って女ばっかりだって言うし、ハーレムだよなぁ。ぐふふ。

 それから、少し準備がいると言って俺たちを待たせたディアが再び現れた時、その背中にはどこから持ってきたのかと問いただしたくなるぐらい大量の荷物が背負われていた。ディア曰く、嫁入り道具らしいのだが、戦力に加わることをそう呼ぶ習慣でもあるのだろうか?

 出発の時、行きと同じようにディアがドラゴンに変身し、皆を背中に乗せて魔王城まで帰ることになった。来たときは想像もできなかったが、城を出る時は竜人たち総出で俺たちの出発を見送ってくれた。

 ただ不思議なのは、みんなして『おめでとうメルディア様』って言ってたんだが、何がおめでたいのだろうか?

 まだモンスターの習慣になれていないからか、よく分からんことが多いな。

 だがもっとも納得いかなかったのは――


「うあああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 大量の荷物と俺は背中には乗らず、ドラゴンに変身したディアに咥えられて魔王城まで運ばれたことである。

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