第2話
僕が猫と暮らし始めて、数日が過ぎた。
「首輪の跡、ないよな。…お前、ずっと野良だったのか?」
バイトを終えて部屋に帰り、夕食を済ませた後、僕はきまぐれに、部屋の片隅で寝転んでいる猫に声をかけた。
「みゃぁ」
「それにしては食い物の好みにうるさいよな。お前。買ってきたキャットフード、あんまり旨くなかったか?」
「ふみゃ・・・」
僕の言葉に、一々律儀に返事をしてくるのが、まるで誰かと会話をしてるようで、僕は少し嬉しくなった。同居人がいるのならこんな感じかなと思いながら、僕は
「もしかして、僕の言ってる事がわかるのか? そんな訳ないか…」
我ながら馬鹿げた考えだなと思いながら、僕は猫の顔に目を向け、そう軽口を叩いた。
「にゃ!」
すると、まるでその一言に反応するかのように、猫はひときわ強い鳴き声を上げると、僕をまじまじと見つめ、こくりと頷いてみせた。
「…ありえないだろ」
僕は、そう呟くと、自分の考えを打ち消した。猫が人間の言葉を百パーセント、全部理解してると思うなんて、どうかしてる。
戸惑う僕の様子を見ると、猫はひらりと身を翻し、部屋の壁に爪を立て、ガリガリと壁をひっかきはじめた。薄い壁紙に傷ができ、その傷が次第に、何かの模様のように繋がっていく。
「…にゃ」
しばらくして、猫は僕の膝にすとんと乗ると、じっと僕の顔を覗き込んだ。
「何か言いたい事があるの?」
そう尋ねると、彼女はすとんと僕の膝から飛び降り、壁をトントンと叩きながら、出来たばかりの壁の傷を前足でなぞった。
そこには、爪跡で「Y E S」という文字が刻まれていた。
僕は今度こそ、完全に言葉を失ってしまった。
猫の歌 岡本 高 @arue60496
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