この人は本当に鈍感だよね
寝たお陰でかなり頭がスッキリしている。
凝り固まった肩をほぐしながら、隣に座る由美さんを見る。まだノートにまとめているところを見ると、写し終えていないのだろう。
俺の視線に気づいた由美さんは、こちらを見て微笑む。
「おはよう、綴君。よく眠れた?」
「お陰さまでぐっすりと」
「ノートはもうちょっとでまとまるから、少し待ってて」
「ありがとう。この埋め合わせは必ずお返しします」
簡単に頭を下げてお礼を言うと、由美さんは「えっ?」と意外そうに俺の顔を見た。
「もしかしなくても綴君」
「はい?」
「私の話し聞いてなかったね?」
「えっ?」
話ってなんの話しだ? ノートを代わりに取ってあげるみたいなことは話した気がするんだけど、それ以外に何か話したっけ? 寝る前の記憶がちょっと曖昧だな。
考えているうちに、由美さんがこちらを睨み付けているのに気づく。反射的に体を引くようにして由美さんから距離を取った。
「あの、ごめんなさい」
「……まあ眠そうだったし、覚えてないのかもしれないけど。これでも結構頑張ったんだけどな」
悲しそうに下を向く由美さんに、罪悪感がいっぱいになった。覚えていないこととはいえ、俺が原因であることは確かなので、由美さんに向き合うようにして頭を下げる。
「ごめん。覚えてなくて。お詫びということじゃないんだけど、俺でできる範囲だったらなんでもするから」
「……本当は恥ずかしいから、二回も言いたくないんだけど」
由美さんは手を止めて、うつむきながら小声で「私と二人きりで、お出掛けしてほしいの」と言った。
二人きりって……それ。
「それ……あの……」
言っていいのかどうなのか悩む。だって俺たちは別に付き合っている訳ではないから、そういうことを言語化するのは抵抗があるというか。
「デート。してくれませんか?」
「……」
赤くなった頬と耳、自信なさげな表情に、自分の気持ちがグッと引き寄せられるものを感じる。
「えっと……はい」
「……言質とったからね。とりあえず、そういうことだから。また予定決めよ?」
「ああうん。そうだな」
「ノート後ちょっとだから待ってて」
「うん」
由美さんが急いでノートをまとめてくれているが、俺は今すぐにもこの場を立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。
ヤバイ。恥ずかしすぎて由美さんの方をまともに見れない。
暑くなった顔を見られないように由美さんがいる方とは逆の方を向く。
もしかして由美さん……そういうことなのかな?
もやもやとしたものを考えながら、だたただ由美さんがノートをまとめ終えるのを待つのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます