由美さんとデート

 あの約束から数日。

 ようやくのデート日に、俺はがらにもなく緊張していた。


 時間を入念チェックしてしたにも関わらず、待ち合わせ場所に30分は前にたどり着いてしまった。

 普段ならこんなことはしないのだが、約束をして女性と二人きりで出掛けるという体験をしたことがないから、どうすればいいのか自分でもわからないのだろう。

 まあ、望まぬ形で二人きりになったことはあったにはあったが、あの時とは状況が違う。

 由美さんが望んで、俺と二人だけで出掛けたいと言ったのだ。しかもデートだとも。

 いくら俺が鈍感なやつだとしても、意識してしまうだろう。


 スマホで時間を確認する。丁度15分前になった。


 ズボンのポケットに閉まって。あと15分もこの緊張の中いないといけないのかと思うと、色々と考えてしまう。


 頭を横に振って、考えを切り替えようと周囲に目を配った。


 今日は、少し遠出をして水族館に来ていた。県内でも有名なイルカショーがある水族館で夜も営業もしている場所だ。テレビなんかでもよく取り上げられている有名なところなので、家族連れやカップルが多く、中には俺と同じように誰かを待っている人もいた。


 そういえば、水族館なんて子供のころ来た以来だな。

 まだ親父が日本にいたころに、一度だけ家族で来たことがある。その時に真澄と二人で親父とはぐれて、迷子になりながらも館内回ったっけな。


「綴君」


 声のする方を向くと、おめかしした由美さんの笑顔が出迎えてくれる。

 まだまだ残暑のため気温が高いので、由美さんの服装は比較的薄手だ。相変わらず彼女に合う清楚な服装に、見惚れてしまう。


「おはよう。由美さん」

「早かったんだね」

「うん。なんか緊張しちゃって」

「綴君でも緊張するんだ」


 意外そうに言われたが、顔に出ないだけで俺だって緊張はしている。


「まあ。二人っきりってのは初めてだったから」

「そう言われると、そうだね」

「……いこっか」

「うん」


 お互いしどろもどろしながらも、館内に向かっていく。

 デートということに少しだけ不安を感じつつも、できるだけ由美さんには楽しんでもらおうという気持ちを、改めて決心した。

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