何考えてんだ?

 やっぱり、今日はなんだか様子がおかしい。いつもだったら昼休みに突撃かますし、放課後も誰よりも早くクラスに来て真澄と帰っている。

 それなのに今日は、一度も真澄の居るこのクラスに顔を出してない。


 思えば朝から気がかりではあった。けど、どうせこいつのことだから。そう思って適当に流していた。


 だけど放課後になって、変だと気づいた。


 あいつ、何考えてんだ?


 隣のクラスにいる俺の恋敵である田中智恵を見に行く。クラスにはもういないようで姿が見えなかった。

 真澄も一人で帰ってたし、田中も一人で帰ったのか? でもあいつら、いつも一緒で学校の中ならどこにいくのも二人で一人みたいなところはあるのに。


「何を覗き見てるんですか?」


 真後ろから声をかけられ、ビックリして後ろを振り向くと同時に下がってしまったため壁に背中を打ち付ける。


「いって……」

「何をしているんですか?」


 呆れた表情で俺を見るのは、先ほど考えていた張本人である田中智恵。


「お前。帰ったんじゃなかったのかよ?」

「これから帰るんですよ。そしたら不審者が私たちのクラスを覗き見ていたので、声をかけたと言うわけです」

「俺もこの学校の生徒なんだけど?」

「どこからどう見ても不審者ですよ。それで? 何をしていたんですか?」

「それは……ちょっと、お前のことが気がかりで?」


 素直に伝えると、田中は自分の腕を抱くように自分を守りながら「やっぱり私に狙いを変えて?」と、どこか恐怖すら感じているようだった。


「今朝も違うっていっただろ? そうじゃねぇよ」

「ならなんだと言うんですか? 恋敵である私を、あなたが気にかける必要はあまりないと思いますが」

「ない……と言えばないんだが」

「なら」

「けど、友達は友達だし。それに、真澄のためでもあるし」

「真澄の?」


 今日一日、俺は真澄のことも気にかけていた。普段一人でも問題ないあいつだが、田中が姿を表さなかったせいで、いつにもましてつまらなそうな雰囲気がしたんだ。表情に関して言えばまったくわからなかったけれど、これでも学校にいる間はほとんど毎日に見てるから、わかることも出てくる。


「なんで今日、うちのクラスに来なかったんだよ? 真澄が寂しがってたぞ?」

「ああ、そのことですか」


 そのことって。いつもだったら、真澄が寂しがってた!? それはいけません。すぐにでも向かなければ! ってなるところじゃないのか?


「そうですか。寂しがってはくれるんですね」

「そりゃあそうだろ。だって親友だろ?」

「それは、私からだけです」


 含みのある言葉に、感情を圧し殺したような綺麗な普通な表情。威圧されたような感じがして、唾を飲み込んだ。


「来年には三年。そして大学にいくでしょう。時間は待ってくれない。否応なしに私たちを大人にしていきます」

「なんの話を?」

「けれど今のままでは、何も変わらない。もう私の気持ちがどうのとか言っていられないんですよ」


 優しい笑みに、心臓が握り潰されるような圧迫感を覚える。


「いい加減、卒業しないといけないんです。そのために私は、やれることをやります。これはあの人のためじゃない。真澄のために、この先の人生を費やすと決めたんです」

「……」


 なんの話しか、本当に理解できない。けれどそれは、彼女が考えた末に出した結論なんだろ感じることはできた。


「今の真澄のことは託します。上手くいけば、少しは振り向いて貰えるんじゃないんですか?」

「おっ、おい!」


 横を通りすぎていく田中を、俺は止めることはできなかった。

 彼女の背中を見つめながら、自分の中にあるにあるモヤモヤした気持ちが、苛立ちを募らせた。

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