彼女までの距離

 今日はなんだか調子がでない。

 一人でもそもそとお弁当を食べながら、調子の出ない原因を考える。


 今日は朝早く起きて準備もして、お兄ちゃんとも適度に絡んでお兄ちゃん成分を供給して、高橋君や他の友達ともお喋りして、ご飯もちゃんと食べてるし体育があったわけじゃないから疲れてもいない。

 なんだろう。


 もそもそ食べながら窓の外を見る。まだまだ夏は過ぎ去らない。快晴の空から降り注ぐ太陽の日差しが肌をジリジリと焼いて来る。

 日焼け止めは当分手放せそうにないかな~。あれ? そういえば今日つけたっけ?


 朝の記憶を思いだし、ひたすらにお兄ちゃんの事が頭の中に浮かんでくる。


 お兄ちゃんに夢中で塗るの忘れてるかも……。


 まあこれは仕方がない。だって私の中ではお兄ちゃんが最優先だから、その結果忘れたとしてもいいのだ。


「日焼け止め……あれ?」


 鞄の中から日焼け止めを出そうとして、ないことに気付く。

 忘れてきた……ちーちゃんに借りようかな。


 そこでようやく。今日一度も、ちーちゃんと話していないことに気が付いた。


 そういえば。朝見かけてから何もなかった。というか、休み時間にも来てないし。いつもだったらこの時間も一緒にお昼食べてるし。遅く鳴る時はあるけど、それでも今日は来るのが遅い。


 何してるんだろう?


 お弁当を約半分食べ終えたところで、一度箸を止め弁当に蓋をして席を立つ。

 ちーちゃんのクラスは隣なので、覗き込んでいなかったら何か用事があるということ。だったら先にご飯を食べて待っていればいい。


 教室を出てすぐ隣のクラスを覗き込む。ちーちゃんの席がどこだかわからないが、結構目立つ容姿をしているので、どこにいても大体わかったりする。

 なんていうか、そこだけオーラが違うというか……やっぱりちーちゃんって感じなんだよね。


 けれど、ちーちゃんの姿はどこにもなかった。


 何か用事があるのかな?


 自分の教室に戻り席に着く。食べかけの弁当を開けて食事に戻るが、心の中にもやもやが募っていた。

 というのも、彼女が私に何も言わなかったことが、少し気になったのだ。

 ちーちゃんは必ずと言っていいほど、昼休みには一緒にいた。もし何かしらの用事で来れない時は、事前に一緒にご飯は食べれないと言ってくれるのだ。

 だから今日みたいなことは初めてだった。


 なんだか……嫌な胸騒ぎがする。


 何がそう思わせたのかはわからなかったが、漠然とその気持ちだけが、心にこびり付いて離れなかった。



 結局、その日は一度もちーちゃんと話すことなく、私は家路についたのだった。

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