新学期の始まり

 長かった夏休みが終わりを告げ、私たち高校生は一足早く学校が始まる。

 校長先生の眠くなりそうな話を聞き終えて、ようやく教室の方に戻ってくる。


 朝からまあ面倒くさいことこの上ない。こんなことに時間を使うくらいなら、真澄との時間を大切に考えたいものです。

 廊下に設置されている自分用のロッカーから、次の時間の教科を取り出す。


「おう」

「……あら」


 話しかけてきたのは、私にとってただの害虫に過ぎない、いまだ真澄との関係も取るに足らないほど進行していない人。高橋さん。

 真澄の唯一の男友達である高橋さんですが、結局のところ私とそう大差ない反応をされている。しかしこいつは真澄と同じクラスなので、私よりも交流はたぶんしてる。

 いや……こいつのことだからきっと、人の目を恥ずかしがって話しかけれないか。ひよこちゃんですからね、しかたありません。


「なんだよ。にやにやと」

「いえ、根性なしがいるなと思っただけです」

「誰が根性なしだ」

「あなたですが」

「こいつ……」


 事実なんだからそんなに怒らなくてもいいのに。


「新学期になってちょっと暗いなと思ってたけど、そんなことなかったな」

「えっ? なんですか? もしかして口説いてるんですか? でしたらごめんなさい気持ち悪いです」

「別にそんなんじゃねぇよ。それにお前は俺が誰を好きなのか知ってるだろ?」

「男なんて下半身で動くような連中ですよ? 私の美貌に首ったけになってもおかしくはないと思いますが」

「自分で美貌とか言っちゃうのかよ」

「普メンだから僻んでるんですか?」

「だからそんなんじゃねぇって」

「それで? 何かご用で?」

「用っていうか……」


 渋い顔をして腕を組む。なんだか様子がおかしい。まさか本当に鞍替え!? 私の美貌が本当に下半身が反応したの!?


「久しぶりに会った真澄が可愛すぎて直視できなくて、心の近郊を保つためにお前に会いに来た」

「やっぱりひよこちゃんじゃないですか」

「ひよこ?」

「こっちの話です」

「……そういえばお前。いつもだったら休みの時間なら関係なく突撃してくるのに、今日はおとなしいな」

「……ちょっと、やることができてしまっただけです」


 本鈴の鐘が鳴る。


「ほら、戻った方がいいですよ」

「お、おう。じゃ」


 本当。なんで私はこんなことを引き受けてしまったのだろうか。けれどこれはいずれ、真澄は越えなければならない問題になってくるでしょう。

 それの手助けをできるのなら、私は……。


 ロッカーの扉を閉め、私は教室に戻った。

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