お祭りデート

 台風のように阿子が去ってから、真澄の機嫌がよろしくない。

 普段だったら出さないような不機嫌オーラを全開にされ、会話も素っ気ない。

 だというのに、やっぱり腕は離そうとはしなかった。いまだにギュッと抱きついたままで、先程購入したリンゴ飴を食べている。


「真澄。焼きそばもあるんだけど……?」

「……だから? リンゴ飴食べたかっただけだし」


 いい加減手に持った焼きそばをどうにかしたいのだが、真澄が腕を離さず引っ張るので、落ち着ける場所にすらいけない。


「真澄~。いい加減お腹空いたんだけど……」

「私はお腹空いてないです」


 そりゃあリンゴ飴食べてますものね。


「俺は何も食べてないんですけど」

「じゃあ何か食べれじゃいいじゃない」

「いや、だから焼きそば……」

「駄目。まだ駄目だから」


 どうしてそんなに頑ななのかわからないが、焼きそばはまだ駄目らしい。


「じゃあ手持ちで食べれるものが」

「はい」


 屋台を見ていたら、顔の前の食べかけのリンゴ飴が出てきた。


「あ~ん」

「……真澄。俺はそこまでリンゴ飴は」

「あ~ん……」


 有無を言わさず押し付けてくる。

 正直そこまで好きなものではないが、いたしかたなし。

 リンゴ飴にかぶり付く。甘くフルーティな味わいが口の中に広がり、いや甘すぎだろと心の中でツッコんだ。こういうのを食べると、しょっぱいものが欲しくなる。手に持ってる焼きそばを早く食べたい。


「美味しい?」

「うん……まあまあだな」

「え~。お兄ちゃんはこの味の良さがわからないのか。ダメダメだね」

「わるかったな」


 しかし。言葉とは裏腹に、真澄の機嫌が直っている。

 本当に意味がわからないが、不機嫌じゃないだけましだろう。こういう時は、あまり険悪にはなりたくないものな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る