後輩とのデート④

 阿子に連れられて訪れたのは、裏庭にあるケヤキの木。

 これがなんで七不思議に入っているんだろう。確かに辺りが暗いこともあって、聳え立つ木の威圧感や不気味加減は異常に跳ね上がっている。心なしか、肌寒いような気もするのが、なんか嫌だ。

 けど、このケヤキの木にそんな噂があったなんて。でも確かに、変な噂があるって、前に鈴木に言われたこともあったな。このことだったのか。


「これが七不思議の一つなのか?」

「そうですね。……近くで見ると少し恐いですね」


 腕を握りしめる手に力が入っている。さすがに実物を見たら怖くなったか。


「で? これは七不思議のなんなんだ?」

「えっとですね~。え~……」


 なんだか歯切れが悪いな。


「なんでもこのケヤキの木の下には、戦時中に死んだ人の遺体をがまだ埋葬されているとかなんとか……だったような気がします」

「それはまた……考えたら嫌だな」


 そもそも戦時中とワードが嫌だ。無条件で嫌な感じがする。


「んで? 何が出るんだ?」

「えっ?」

「えっ? じゃないだろ。何かが出るからここに連れて来たんだろ?」

「ああ、そうですそうです。その……その時の怨念が木の下から聞こえてくるという物でして」

「ふ~ん」

「ちょっと、いきませんか?」

「まあ……俺はいいけど」

「じゃあ行きましょう!」

「おい!」


 ぐいぐいと引っ張りながら、ケヤキの木の下にやって来る。ブロッコリーのように広がった枝葉の下にやってきて、幹の部分を良く見たり、聞き耳を立てて見る。けれど特に何も聞こえないし、何も出ない。


「なあ? 本当に出るのか?」

「出るって聞いてるだけですから。でも……その」

「ん?」

「もし出たら、私のこと守ってくれますか?」


 心配そうに見上げる姿が、いつもは大人ぶってる阿子にしては珍しかった。こいつにも苦手な物があるんだと再確認して。頭に手を置く。


「幽霊相手に守れるかわかんねぇけどな」

「ちゃんと約束してください。それとも、先輩は守ってくれないんですか?」

「えっ? いやだから」

「私は先輩のこと信じてますから。だって好きですもの」

「ああ、うん」

「先輩は……どうですか? 私のこと……好きですか?」

「それとこれとは……」なんか違くないか?


 いつの間にか論点がずれている気がする。というか、誘導されてる?

 けどなんか真剣そうだし。一応、真面目に答えとくか。


「好きか嫌いかで言ったら、そりゃあ好きだよ」

「それは、後輩としてですよね」

「えっ? ……まあ、そうだな」


 そもそも。それ以外で見たことはない。


「私はこう好きですよ」


 そういう阿子は、握っている方の手をぐっと下に引っ張る。


「――」


 そして俺の唇に、自分の唇を重ねた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る