後輩とのデート③

「七不思議っていうか、一不思議だけどさ。どこのことなんだ?」


 学校の噂について、全くと言っていいほど知らなかった俺は阿子に尋ねる。


「ついでに手を繋ぐ理由も教えて欲しい」現在俺は、なぜか阿子と仲良く手を繋いで歩いている。

「手を繋いだ方が臨場感ありません?」

「そうか? 夏場だし、暑いだけじゃないか?」

「わかってないですね~先輩は。女子と一緒に肝試しにいくなら、ちょっとのラッキースケベを期待するのが男子じゃないですか」

「それは偏見甚だしいというものだぞ」

「キャーこわーい! っていうふうに腕に抱きついて来た時に感じる、おっぱいの感触にドギマギする。そこに男子の夢があるんでしょ?」

「いやそれは……」そういえば最近、由美さんに腕を掴まれたことがあったな。あれはなんていうか、心臓に悪かった。「……そうかもな」

「……先輩。もしかしてそういう経験がおありで?」


 立ち止まって尋ねられる。阿子に嘘は通じそうにないので「ちょっとな……」と濁した表現で誤魔化した。


「……まあいいですけど!」


 手を繋いでいたと思ったら、強引に腕を絡めてきて、自分の胸を俺の腕に押し付けてくる。由美さんほどではないが、程よく育った胸の感触が腕に伝わる。


「ちょ……阿子」

「こっちの方が先輩が嬉しいと思いまして」


 腕を絡めつつ、更にはきちんと手を繋ぐ。しかしさっきの握手のように繋ぐのではなく、俗に言う恋人繋ぎをされた。


「どうですか? せ・ん・ぱ・い♡」

「どうと言われても……」暑いとしかいえない。しかしその暑さが、果たして阿子のものなのか俺のものなのかがわからない。

「女の子がこれだけ迫ってるんですよ? 昂ったりするものじゃないんですか?」

「照れはするけど……さすがにそれはないよ。邪な目で見たくないし」


 それはどの女性にたいしても思うことだが、あまりそういう目で見たくはない。俺の中では、そういうのが失礼になるんじゃないかという思いがあるからだ。


「まあ、先輩のそういうところは好きですよ」

「そうか……」

「でもちょっとくらい……」

「ん?」


 最後の方がよく聞こえなかった。


「なんだよ。ちょっとくらいって」

「いいんです。それよりも行きましょう。もうすぐそこなので」

「結局、噂については何も教えてくれないんだな」


 とはいえ、自分の母校なのでどこに何があるのかは、うろ覚えだがなんとなくわかる。たぶん今かいくところは、校舎裏のケヤキの木だ。

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