後輩とのデート

「お疲れさまで~す」

「お疲れさまです」


 出番を終えた阿子に連れられ、スタジオを出る。夏の湿った風が吹き抜ける夜道を歩きながら、俺は本当にこれからデートをするのかと疑っていた。

 それもそうだろう。相手はあの阿子なのだから。


 阿子は高校の時の後輩。現在は、何故か違う高校に通っているようだが、俺が卒業するまでは同じ高校に通っていた。


「いや~、やっぱり夏休みなだけあって、カップル多いですね~」

「そうだな」


 大通りを通っていると、こんなクソ暑い中、お互いの熱すらも関係なく手を繋いだり密着しているカップルが目立つ。俺だったら絶対に嫌だなと思った。


「そういえば先輩。私たちもデートなんだから、手を繋ぎます?」

「え……?」心底嫌そうな声をすると、阿子はケラケラと笑った。

「先輩わかりやす過ぎですよ。暑くて手を繋ぎたくないんでしょ?」


 見透かされたことに、頭の後ろを掻いた。


「昔から、何故か阿子には考えることがバレタよな」

「先輩。顔には出ないけど、声でわかりますから」

「声か」

「顔はわからないです。たぶん先輩の表情読める人は、先輩に負けず劣らずの変人だと思います」

「声で判断できるお前も凄いけどな」

「そうですか? 私は普通ですよ」


 表情を読まれることは増えたけど、心まで見透かすのはたぶんお前だけだぞ。


「それより先輩。デートなんですからどっか行きましょうよ?」

「この時間からか?」

「まだ8時ですよ?」

「もう8時だよ。それに俺、家に帰って飯作んなきゃ……」


 今日の飯当番は俺なので、今頃真澄はお腹を空かせているだろう。


「真澄ちゃんか……こんなこと言いたくないですけど、そんなに真澄ちゃんのこと大事なんですか?」

「どういうことだよ?」

「いい加減、放って置くことも覚えないと、いつまでも真澄ちゃんが先に進みませんよ」


 阿子の言ったことは、何度か俺も考えたことだ。けれどそれでも俺は、まだ真澄は守られるべき年齢だと思っている。


「遅くてもいいんだよ。急ぐことじゃない」

「それまでは、先輩が養うんですか?」

「ああ」

「それがずっとでも」

「そうだよ。あいつは俺の妹なんだから。守ってやるのは兄として当然だ」

「……たく」


 阿子は心底呆れたように溜め息を吐くと、「真面目に言ってるからたちが悪いですよ」と悪態をついた。


「ほっとけ」

「まあ、それが先輩ですからね。でも今は私とデートしてるので、真澄ちゃんにはバイトが遅れるのでご飯は自分で作ってね。って連絡してください」

「えっ? だから俺は」

「今日だけですから。たまには可愛い後輩の我が儘も聞いて下さいよ」


 可愛らしくお願いをされる。本来だったら、少し話して帰るのが普通なのだが、先程のやりとりもあったからだろう。「今日だけな」と押しに負ける形で了承した。

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