短期バイトは金がいいが面倒

 夏休みだし。普段のバイトとは違うのもありかもしれないなと思って引き受けた仕事だったが、まさかこうも連日スタジオスタッフとして駆り出されるとは思わなかった。普段のバイトもあるのにこっちもやって、休める時間がない。働きたくない。


「せんぱ~い。お疲れさまです」

「…………」


 俺の後輩の阿子が働くスタジオの、スタッフ用の控室。そこで俺はパイプ椅子に圧し掛かる様に体を預けて、天井を仰ぐ。あまりも疲れているので、阿子の言葉に応える気力すらない。


「お疲れですね」

「……毎日来てるからね」

「昨日は来てなかったですよ?」

「本屋の方でバイトだったからね」

「じゃあ毎日じゃないですよ」

「毎日バイトしてるよ。俺の信条に反する」

「休みは休みでなくてはならない。でしたっけ」

「そう。だから休みが欲しい」

「今日で最後じゃないですか」阿子は俺の隣にある椅子を引いて座る。

「今日を休みたかった」

「今日は休んじゃ駄目です」

「なんでよ」

「私がまだ出てないですから」


 そういえば今日、こいつのバンドが出るんだっけか。


「こんなとこに居ていいのか?」壁掛けの時計に目をやると、そろそろ準備をしないといけない時間だろう。

「まだ開場してないから大丈夫ですよ」

「もう立派なバンドマンだな」

「先輩は……もうやらないんですか?」

「そうだな……趣味だったらやるかもな。仕事にはしない」

「そうですか」


 少し残念そうに笑顔を見せる。


「先輩と一緒に仕事するの楽しいんですけどね」

「俺は楽しさよりは楽を取りたい。どうせ社会に出たら休めないんだから――」

「今の内に休みたいってことですよね」

「うん」

「じゃあ後二年くらいしたら、一緒に働きましょうよ」

「それは無理だな」

「何でですか?」


 確かに阿子と一緒に仕事するのは楽しそうだけど、俺は将来やりたいことは決まっている。なので阿子には悪いが、それは断る。


「進みたいところは決まってるんだ」

「……そういうところ。やっぱり先輩ですね」

「それ、褒めてるのか?」

「褒めてますよ。そりゃあもう」


 笑顔で言われるのが、少し馬鹿にされているような気がしてならない。


「先輩」

「なんだよ」

「終わったらデートいきません?」

「デート?」


 デートって……デート?


「じゃあまた!」

「あっ! おい!」


 阿子は言い逃げるように部屋を出る。俺はその後ろを目で追いながら、「え~……?」と困惑した。

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