お昼です

「おっまたせ~」


 コンビニで買い物を済ませた俺達は、足早に真澄たちの所に戻ってきた。時間もたっていたし、俺達の腹の具合も限界だった。


「おかえり~」

「ちっ。早いですね」

「おかえりなさい」


 三者三様のお出迎えをしてくれる。真澄と高橋君はまあいいけれど、田中さんはカメラを片手にとても残念そうだ。そのカメラで一体なにをしていたのかと問いただしたい。


「やきそば~」

「いくらしましたか? 出します」


 しかしまあ。先にこっちだな。


「高橋君。今日は俺達のおごりだからお金はいいよ。それと買ってきてくれたのは鈴木だから、鈴木にちゃんとお礼言っとけよ?」

「は~い」

「よせやいつづりん。そんな、たいしたことしてないぜ」得意気に胸を張る鈴木に、「じゃあお礼はいいですね。はやく食べましょう?」と辛口なツッコミをする田中さん。


「ちょっとはお礼を言ってもいいんじゃないかい?」

「ありがとうございます。両側回遊魚さん」


 なんだ両側回遊魚って?


「両側回遊魚って何?」


 由美さんも同じことを思っていたようで、田中さんに尋ねる。


「鈴木さんのことですが?」

「それはなんとなくわかるけど」

「海も川もどっちもいける魚のことだよ。鱸は海の魚だし、鮎は川の魚だから、どっちも持ってるから両側回遊魚ってこと。だよね?」

 鈴木の説明に眉を顰めて「私に聞かないでください」

「洒落てるよね。こんな罵倒初めてだよ」


 何が可笑しいのかわからないが、鈴木的にはお気に召した罵られ方だったようで、どこか嬉しそうだ。ただそれが非常に不愉快なんだろう。田中さんは皆が聞こえるような音量で舌打ちをする。はっきりいって恐い。


「それよりもさ。早く食べようよ」


 ナイスアシスト由美さん。


 コンビニの袋から買ってきたお昼を取り出す。高橋君と俺でそれを手伝い。レジャーシートの上にはご飯が並べられた。


「真澄ちゃんのリクエストで焼きそばと、あとはおにぎりとかサンドイッチとか。お菓子もいくつか買ってきてくれたみたいだから。後で食べよう?」

「そういえば、お菓子って何を買って来たんだ?」


 俺の質問に、鈴木は「色々。ポテチとかじゃが○ことか、後はたけのこ○里」と答える。すると田中さんが「たけのこ?」と眉を顰める。


 なにやら不穏な予感が漂った。


「なんできのこじゃないんですか?」

「えっ? たけのこが好きだったから?」

「ナンセンスですね両側回遊魚さん」

「それ気に入ったの?」

「普通きのこ○山でしょう!」


 よくわからないところで喧嘩が勃発してしまった。そこから先は長年の柵が関わって来るから、踏み込んではいけないぞ。


 俺と由美さんはそれをスルーして、真澄と高橋君に「どれがいい?」とおにぎりを並べて尋ねる。


「あれ、いいんですか?」


 高橋君のいいたいことはごもっともだが、あそこに踏み込んだら最後。きっと論争からは戻って来れない。後、俺はト○ポ派だ。最後までチョコたっぷりだからな。


「いいよいいよ。鈴木もあれで楽しんでるし。田中さんの怒りが収まったら、自然と戻って来るでしょ。真澄は鮭でいいか?」

「今日は高菜な気分です」

「いつも鮭の癖に」


 気分やだから別にいいけど。


「それじゃあ俺は鮭をいただきます」


 気を使ってくれたのか、高橋君は俺の手に取った鮭を受け取った。高橋君。君は本当に良い子だね。真澄のことがなかったら弟に欲しいくらいだ。


「鈴木。先に食べてるぞ?」


 念のため尋ねると「いいよ~」と軽い返事が返ってくる。まだ田中さんとの論争に付き合うようだ。


「じゃあ、いただきま~す」

「「「いただきま~す」」」


 その後、決着のついた二人が戻ってきて、「折衷案でアル○ォートになりました」と聞いた時は、流石に笑った。

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