高校生サイド
仕方がないとはいえ、お兄ちゃんと由美ちゃんが二人で行くと(※鈴木の存在は忘れ去られた)、ちょっとどころか、かなり妬きもち。
別に由美ちゃんと一緒に行く必要はないといいますか。私と一緒に行くのが普通といいますか。そういう物なんじゃないのですか? と問いただしたくなる。
真澄はふて腐れつつも、表情が変わらないからオーラだけが異様に淀んでいるように見える。それを機敏にも感じ取った田中さんは、これはチャンスだ! 目を輝かせた。
「真澄~。せっかくですし一緒に写真でも撮りませんか? 綴さんたちが帰ってくるまで、何もしないというのも味気ないですし」
「写真? いいよ」
心の中でガッツポーズをする田中さん。
「では高橋さん。よろしくお願いします」
「なんでも俺が撮るんだよ」
高橋君も真澄と一緒に写真を撮りたい。それなのにここでカメラ役に回れば、恐らく田中さんが今日一日はカメラ役に高橋君を押し付けることだろう。しかしだからと言って、自分から一緒に撮ろうなどとは口が裂けても言えない。なんせそんなことをするのは、恥ずかしいからである。
積極的になろうとはしている。だがそれ以上に真澄と一緒にいることは気恥ずかしいし、心臓が鳴り止まなさすぎて精神的に良くない。車の中でさえ変に意識して色々とテンパっていたというのに、これ以上心労が重なれば、この先遊べるかがわからない。最悪ずっと休憩、なんてことにもなりかねない。
しかしその気持ちを悟られてはいけない。あくまで自然に、普通にしなくては、真澄にならまだしも田中さんに弄られる。高橋君にとって、それは死んでも嫌だった。
「いいじゃないですか。へるもんでもない」
「確かにそうだけど……俺に頼むよりも自ど……」
そこまで言って高橋君は気づいた。自撮りは、フレームに収まろうと必然的に顔を近づけてしまう。そんなことを提案してしまえば、きっと田中さんは嬉々として行い、そして失敗を理由に何度も何度も写真をとることだろう。その間、高橋君は何もするでもなくその光景を見せつけられるのだ。これと屈辱と呼ばずになんと呼ぼう。
「撮るよ。貸せ」
急に素直になる高橋君に、田中さんは訝しげな顔になる。そして行きつく。
自撮りの方が真澄に急接近できるんじゃないんですか?
そこに行きついて、心底自分の浅はかさに愕然として。何故最初にそれを提案するに至らなかったのか。そうすれば何枚も写真を撮れるし何度でも真澄にボディタッチができるのに。
今らでもその方向に変えるか? とも考えたが、すでに遅い。高橋君が『貸せ』と言っている以上、貸すことが自然な流れで、そこから自撮りにするのは至難の業だからだ。だって最初に、高橋君に撮って? とお願いしてしまったから。
だから断るのは不自然。かと言って撮って貰うとなると一回こっきり。ならばここは、一かいこっきりでも高橋君に撮ってもらうのがいい。
二人が静かにそんな頭脳戦を繰り広げていると、唐突に「三人で撮ればいいんじゃない?」と、先程までのやり取りはなんだったのか言いたくなる提案をされる。
そしてその提案を、二人が断る訳はなかったのだった。
~事の結末~
田中さんが頑張って高橋君をフレームアウトさせて二人しか映ってないようにしましたが、高橋君は真澄と近づけたので満足だった。
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