大学生サイド

 コンビニに辿り着いたが、やはり海の近くということもあり、大勢の人で賑わっていた。観光客が狭い通路で商品を吟味しており、その隣でコンビニの店員さんが必死に品出しをしている。

 お客さんであるこっちは何とも思わないが、店側からすると動きにくいことこの上ないだろう。


「凄い人だかりだね」


 由美さんは驚嘆の眼差しでコンビニを眺める。俺も同じ気持ちで見ていた。


「俺と鈴木で買って来て、由美さんは外で待ってて貰った方がいかな?」

「えっ?」

「だな。女の人がこの中はちょいキツイだろうし」

「大丈夫だよそれくらい?」


 俺達二人だけに負担をかけまいと思う気持ちは凄く嬉しいのだが、コンビニの中は殆どが男性のように見える。周りに俺達がいるとはいえ、その中に由美さんを入れるのは俺達としては嫌だった。何かあるのも嫌だし。


「大丈夫。直ぐ買ってくるから」


 そう言って先に入ろうとしたら、「つづりんも残れよ」と、鈴木が提案してくる。


「いいのか?」

「由美ちゃん一人にさせるのもどうかと思ってさ。誰かついてた方がいいし、ナンパされっかもしれないし」


 確かに。


「そんな、私をナンパなんて。する人いないよ」


 笑って流す由美さんだが、鈴木の意見に大いに賛成だった。由美さんは自分の可愛さを自覚した方がいいと思う。


「じゃあ任せる」

「おう。任された」


 鈴木は一人店内に。残された俺と由美さんは、店の横に移動して、喫煙スペースから少し離れた場所で待つことに。


「私。生まれてこのかたナンパなんてされたことないから大丈夫だよ?」

「じゃあ今日がその日になるかもしれないな」

「それは……」


 ちょっと意地悪に返してしまったが、由美さんはそれだけ俺達が心配していることを察して、「ありがと」と短くお礼を言った。


「うん……」


 会話がそれ以上繋がらず、無言の時間が流れる。

 気まずい。だけど何を話せばいいのかわからない。なんだか車と同じような展開になってしまった。


 チラリと横目で由美さんを確認すると、丁度よく由美さんも俺を見ていたようで視線が合わさる。咄嗟に視線をお互い前に向けた。今度は違った気まずさがそこにはあった。

 どうしよう……いったい何を話したら。

 そんな風に戸惑っていたら、「……綴君」


「ん? どうかした?」

「……」由美さんは髪先を弄りながら、もう片方の腕を自分の腰に回す。

「由美さん……?」


 チラリとこちらを確認して、か細い声で「……そういえば、まだ言われてないなって」と頬を赤らめて言った。


 言ってないって、なんだ?


 由美さんは髪を弄っていた手を止めて、トップスの紐の位置を直す。そしてまたチラリとこちらを確認するので、自然と察することができた。ただその瞬間、顔から火が出そうな程恥ずかしくなる。

 手で顔を覆って、しどろもどろしながらも言葉を紡ぎだす。


「えっと……その。やっぱり似合ってる……その水着」

「……うん。ありがと、選んでくれて」


 微笑む由美さんに、俺はまた恥ずかしくなってそっぽを向いた。「ふふっ」と笑う彼女の声に、自分の感情がばれていることを悟る。

 表情を読み取られることがこれほどまでに恥ずかしいとは。もう少しポーカーフェイスでいたいものだと、人生で初めて思った。

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