海での一時
「真澄~♡ こっち向いて下さ~い♡ きゃあああ!!! 真澄可愛いですよおおお!!」
海には入らず、浜辺からカメラを片手に写真を撮りまくる田中さん。
「相変わらず凄いね、田中さんは」
ビーチボールを抱えながら、由美さんが呟いた。
「むしろ、学校とかではどうなんだろうな?」
「学校でもあんな感じ?」
「さすがに違うんじゃないか? あっ、高橋君」
「はい」
「田中さんって学校だとどんな感じなの?」
「ん~」
彼はあんまり話したくないのだろうか。少し渋い顔をした。
「基本的に存在感は消してますね」
「存在感を?」
「消す?」
俺と由美さんは顔を見合わせて、鈴木ともめ始めた田中さんを見る。
「あんなに強烈なのに、存在を消せるのか?」
「信じられないね……」
「どうかした~」
バシャバシャと泳いできた真澄は、興味深そうに俺の元にやってきて、腰に抱き付く。
「田中さんって学校でもあんななのかなって話」
「あんな?」
「真澄が大好きだろ?」
「うん。学校でもあんな感じだよ?」
真澄と高橋君の言ってることは真逆だが、真澄は着眼点が変だから、一般的には高橋君から見た田中さんが普通の田中さんってことなんだろう。
「けどちーちゃんがあんな感じに怒ってるのは珍しいかも」
「怒ってるって、鈴木にか?」
現在進行形で鈴木を海に蹴り飛ばしたところだった。そういや、いつのまにあんなに仲がよくなったんだろう。
「確かに、田中はあんまり人に素を見せないからな」
「だよね~。でも弘樹君にもあんな感じじゃない?」
「いや、流石の俺でもあそこまで蹴られねぇよ」
海に蹴り飛ばされた鈴木に追い打ちをかけるように、足の裏で頭を押さえて海の中に沈めている。
「やばい、死ぬなあれは。真澄」
「はいは~い」
真澄は手を離して俺は鈴木たちのところへ。まあ十中八九、鈴木がなんかやらかしんだろうけど、ここであいつに死なれたら家に帰れないからな。
~~~
「けれど、ちーちゃんやっぱり少し変わったよね~」
真澄の言葉に、由美と弘樹は疑問に思う。そもそもそこまで付き合いはないし、細かな変化までは気付きづらい。一番付き合いの長い真澄だからこそ、気づけたことだろう。
「けど……どっちなんだろう?」
「どっちって?」
由美の問いかけに「いつも一緒にいるからなのかな? でもどっちもどっちな気もする」と、よくわからない返答をした。
「でもまあ。もしそうだったとしても、たぶん大丈夫かな」
微笑む真澄の表情に、さらに疑問が深まる二人は、浜辺で鈴木に頭を下げさせる綴を見やるのだった。
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