水着鑑賞会のお時間です
あの後、真澄はきちんと皆に謝り、改めて海水浴が始まる。
「取り敢えず、まずは準備運動をしっかりとして、それから海に行くようにな」
「は~い」
俺の注意を真澄は手を上げて応じる。
「足攣ったら元もこも無いからな、特に足は入念にして――」
「いやいやいやつづりん! 確かに準備運動も大事だよ!? だけどそれよりも先にやるべきことない!?」
俺が座って足首を回し始めたところで、突然鈴木が叫んだ。
「準備運動以外に、最初にすることってあるのか?」
俺と真澄はお互い顔を見合わせて首を傾げる。「わかってないね~」と鈴木はやれやれというように額を押さえて呆れる。
「これだけ可愛らしい美女が揃っているのに、水着を見ないなんて――」
次の瞬間、田中さんの強烈な回し蹴りが鈴木の腰に炸裂した。あれ、骨折れたんじゃないか?
「本当に最低ですね。二次元クソ野郎の癖に」
「二次元クソ野郎だとしても、目の保養はするもんだよ~」
俯せで倒れながらも自分を弁護する力は残っているようだった。
「確かに俺は二次元が大好きで三次元なんでどうでもいいと思ってはいる」
「いっそ清々しいですね」
「けれど可愛い女の子の水着姿を見ない男子なんてこの世にはいないのさ。田中さん」
「かっこつけてますが、あなただいぶ見苦しい恰好をしていますが? そこの変について弁護することはありますか?」
鈴木の体勢は、まあ下から上に見上げるような姿なので、どう見ても視線が嫌らしいものになってしまう。
「いや~立ちたくても腰を射抜かれたんだからすぐには無理だって~。それはそうと、田中さんは以外に攻めて来たねッ!」
哀れ鈴木、顔面が砂浜にめり込んでしまった。
「全く、これはあなたに見せるためではなく、真澄に見せるために着て来たのです。他の人なんて知りません。ねっ、真澄」
「うん?」
「水着、似合いますか?」
「うん。可愛いよ」
「はぁん。可愛いって言ってくれた。幸せ」
田中さんの水着は、トップスはビキニ、アンダーがホットパンツのような、ちょっとイメージとは違うボーイッシュなスタイル。さらに髪も後ろで一つにまとめたポニーテール。だからこそだろう。普段のお嬢様の雰囲気とは打って変わって、夏らしいはつらつとした元気さが出ていて凄く可愛らしい。
田中さんでも、ああいう水着着るんだな~。興味深く見ていたら、急に脇腹を小突かれた。
「……」
由美さんが無言で俺を見上げている。
「どうかした?」
「あんまりジロジロ見るもんじゃありません」
「あっ、はい」
怒られてしまった。
「余所見されるのは、女として屈辱」
「えっ?」
よく聞き取れなかったので聞き返したら「……なんでもないです」と、どこか恥ずかしそうにそっぽを向いた。
由美さんの水着は、あの時俺が選んであげた水着だった。うん。なんかあれだな……自分が選んでおいてなんだけど、選んだ水着を着て貰えるって、自分の趣味が露見されているようで少しだけ恥ずかしいな。
「……どうかした?」
由美さんをジロジロと見てしまっていた事実に、俺は咄嗟に「何でもない」と顔を背けた。
いけないいけない、また怒られてしまう。
と思ったのだが、由美さんは髪先を弄りながら、特に怒りはせずにチラチラとこっちを見てくる。
「……どうかした?」
「まあ、そうだよね……」
何か期待を裏切るようなことをしてしまったことだけはわかった。
「取り敢えず!」
復活した鈴木は、急に俺の肩に腕を回し、高橋君も引っ張って来る。
「お二人的には誰がお好みですか?」
こいつ、俺だけならまだしも、高校生になんて酷な質問を。
高橋君は困り顔で狼狽えている。すまない高橋君。こんな大学生たちですまない。でも俺もちょっと気になってるとか思ってすまない。
ここで高橋君が真澄を選ぶなら完全黒。まずはそこから見極めさせてもらう!
「えっと……その……」
恥ずかしいのだろう、三人を直視できず俯きながら口籠っている。さあ言え、言うんだ高橋君。君の気持ちを見せてみろ!
「あの……」
「ちなみに俺は由美ちゃんが一番可愛いかな」
おっとここで鈴木の意外な渡し船。自分が好きな人のことを言えば、他も言いやすい雰囲気になる。しかしお前、由美さんとは意外なのだが。普通に田中さんだと思ってた。
「だって、どことは言わないけど一番実ってるからね!」
突如。田中さんの側頭蹴りが鈴木の鳩尾に直撃。そのまま地面に崩れ落ちる。
「くだらないことやってないで準備運動の続きしますよ? 綴さん、お願いできますか?」
「お……おう」
いや……うん。男子諸君。セクハラには注意しような。
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