何があるというのでしょう

「試合終了!」


 笛の音と共に、皆動きを止めていく。私も額から流れる汗を無造作に拭って、息を零した。


「整列してください。……31-42で、A組の勝利」


 なんとか白星を上げることはできたが、以外にも厳しい場面も多かった。なんでかと言うと、完全に私のスイッチが切れたのだ。

 凄く疲れた。さすがに次は休ませて貰おう。


「真澄~♡」


 試合が入れ替わると同時に、ちーちゃんが私のタオルをもって駆け寄ってくる。


「はい♡」

「ありがとうちーちゃん」

「それと飲み物を……って。そういえば、お昼した時に教室に置きっぱなしでしたね。今取ってきます」

「ありがとう~」


 やっぱりちーちゃんは頼りになるな~。こんなに献身的な子なのに、なんで彼氏とか作らないんだろう。絶対モテると思うんだけど。


 体育館の隅に移動して、壁を背に座り込む。スタートからぶっ通しで試合してたから、もう足もパンパンだった。できることなら一歩も動きたくない。


 掌で扇ぎながら、グデーっとちーちゃんの戻りを待つ。ただボーっと次の試合の様子を眺めていると、隣に誰かが来た気配を感じた。ちーちゃんが戻って来たのかと思ってそちらを振り向くと、そこには試合前に私を見ていた高橋君が立っていた。


 手にはスポーツドリンクのペットボトルを持っていて、それをこちらに差し出してくる。


「……くれるの?」

「ああ」

「ありがと」


 私は素直に受け取ると、高橋君は無言で隣に腰かけた。ペットボトルは未開封のようで、キャップを少しだけ強く回すと、パキッ、っと外れる音がする。


「さっき、結構活躍してたな」

「そう? 適当にやってたと思うけど……」

「まあ、佐藤は運動神経いいしな」

「へへっ、ありがと」


 よほど体が水分を欲していたのか、半分近く飲み干した。ちーちゃんが飲み物を持って来てくれているけど、いらなくなっちゃったかも。


「……次さ、俺らも試合なんだ。それ勝てば、たぶん優勝できる」

「そうなの?」

「総当たりだからまだ試合はあるけど、一応全勝してるから。次勝てばほぼ確定」

「へ~。凄いね。男子も女子も、うちのクラス強いな~」


 素直に感心していると、おもむろに高橋君は立ち上がった。どうしたんだろうと顔を向けると、凄く真剣そうな顔つきで、私を見た。


「佐藤。次、もし勝ったらさ。放課後、俺の話しを聞いて欲しいんだけど……いいかな?」

「話し? 今じゃなくて?」

「今はちょっと困る。場所は勝った後に伝える。それと、田中連れてくんなよ? 絶対な。それじゃあ、そういうことだから」


 それだけ言って高橋君は反対側のコートの方に行ってしまった。放課後に一体何があるというのだろう? わからん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る