女の人は恐いと思う

 結局のところ、私の完全な独り相撲だったということだろう。

 ただやっぱり……すっごく恥ずかしい!


 あの後、キスと勘違いして飛び出しまって、これ以上ないってくらい取り乱した。公然の面前という大義名分で止めに入ったけど、あれは完全に私の嫉妬だ。告白して、彼女でもないのに、綴君が誰か他の女の人に取られてしまうのが嫌だったんだ。


 はぁ~。どうしよう……これで私の気持ちとかバレちゃったかな? いや、冷静に考えてみれば、ただ私が鈴木君に遊ばれてただけだし。綴君だってそう思ってくれるはず。私の気持ちがバレることはないはず。


「由美さん?」

「ひゃい?!」


 声が上ずった。ただでさえ恥ずかしかったのに、余計恥ずかしくなって顔が茹蛸のようだ。いますぐ逃げ帰りたい。でも今更逃げたら、更に変な人に思われる。それは絶対に駄目だ! なんとか普通にしよう。


「何かな?」


 出来る範囲で普通に振る舞うが、どうしても頬が引き攣っている気がする。綴君もなんとも気まずそうにしているし、隣の彼女は私の様子を窺うように見ていた。


「ああいや、災難だったね。鈴木はまあこういう性格だけどさ、悪いやつじゃないから」

「そうそう。ただの海水魚さんですから」


 綴君の後輩である阿子さんも、茶化すように言っているが、これは長い付き合いからくる冗談なのだろう。鈴木君は地面に伏しながら「だから魚じゃ……」、と唸っていた。


「でも意外だったな。由美さんもそういうことするんだね?」

「いやしないよ!? 私ストーカーじゃないから!」

「さすがにそこまでは言ってないよ」

「えっ!? あ、そうだよね……ごめん」


 また早とちりしてしまった。恥ずかしい。


「もう…先輩は女性に対しての扱いが昔と変わっていませんね」

「そうか?」

「ひとまず鈴木さん起こして下さい。私の話しはその後にでも」


 阿子さんに促され、綴君は地面に伏している鈴木君に歩み寄る。その一連の行動を見つつ、私は火照った顔をなんとか冷まそうと、何度か深呼吸をした。


「由美さん、でいいんですよね?」


 そんな私に、阿子さんが隣に来る。


「単刀直入に聞きますけど……由美さん先輩のこと好きですよね」


 そう綴君たちに聞こえないように、耳打ちしてきた。

 冷めそうだった顔はまた、ボッ! っと赤くなり、反射的に彼女から距離を取った。


「やっぱりそうなんですね。これはいいことを知りました」


 彼女は人当たりのいい顔で笑うと、「秘密にしときますよ」と指を唇に当てて約束してくれる。


「でも頑張ってくださいね。私も狙ってるので」

「えっ?」

「あっ、海水魚さん起きました?」


 今のは一体なんだったのだろう。私も狙っている? 綴君を? これはぞくに言う、宣戦布告をされたのでは。


 困惑している私にたいして彼女は振り向き、悪戯っぽく笑った。このまま何もしなければ、奪っちゃいますからねとでも言いたげだった。


「先輩疲れちゃいました~」

「なっ!」


 彼女はこれ見よがしに綴君の腕に抱きつき、チラチラと私のことを窺っている。この子……ちょっとムカつく!


「ちょっと綴君!」

「俺!?」


 とにかく私の中の女の部分が、この子だけには負けてはいけないと言っていた。ただ彼女ほどオープンになれるわけはないので、その怒りやらなんやらは全部綴君にぶつけてしまった。

 ここまでされて腕に飛びつく勇気もない自分に呆れてしまうけど、でも絶対に綴君は誰にも渡さないと、その日改めて自分の気持ちを再確認した。


~~~


 なんかよくわからないけど、由美さんと阿子が怖い。

 二人に板挟み状態の俺は、冷や汗を流しながら、女の人が少しだけ恐いなと思ったのだった。

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