実はずっとスタンバってたの知ってる

 何が起きているのか、俺にはよくわからない。久し振りに阿子に呼ばれて、なんの気もなしに一緒に歩いているだけなのだが、何故か由美さんと鈴木が俺たちの後を付けている。


 何してるんだあの二人? 暇なのかな?


「先輩? どうかしました?」

「あ~……いや、何でもない」


 別に危害を加えるとかそんなことはないだろうし、ほっといてもいいだろう。それよりも。


「いい加減、離れてくれないか?」


 腕を組まれて歩くのは、非常に歩きづらい。それに当たり前なのだが、阿子の胸が腕に当たって変な気分になってしまう。そう言えばこいつ、昔から俺にたいしてはスキンシップが激しかったな。事あるごとに抱きついてきたし、もしかしたらひと肌が恋しいのか?


「嫌ですか?」

「いや、嫌ではないんだが」


 後ろで見てる二人に勘違いされるのは困る。それに鈴木にこんなところを見られたのは不味い。確実に言いふらされる。それと由美さん……彼女の視線が人を殺しそうなほど鋭いのが気になる。俺は何かしたのか?


「まあ先輩がそういうなら、離れてあげますが」


 悪戯っぽく笑って腕から離れ、少し駆け足で俺の前に行くと、クルリと反転して止まった。


「代わりにお願い聞いて貰っていいですか?」

「お願い?」

「はい。あのですね――」


 阿子が話しだそうとした時、桜の花びらが彼女の肩に乗っているのが見えた。


「阿子、肩に」

「はい?」


 少し近づいて手を伸ばした瞬間。


「それは駄目だよ!」


 大きな声を上げながら、後ろで見てた由美さんが、俺の手を掴んで阿子から引きはがした。


「いけないよ綴君。こんな公衆の面前でキ…キ……キスなんかしようとしちゃ!」

「えっ? あの…えっ? 由美さん? 何か勘違いをしているんじゃないか?」

「だって今、手をこう顔にしようとしてたんじゃ」

「肩に乗ってた、桜の花びらを取ろうとしただけだよ」

「えっ?」


 それを聞くと、由美さんは固まってしまった。そして後ろから、鈴木がお腹を抱えて笑いながら現れた。


「由美ちゃん面白過ぎる」

「お前……」


 その姿を見てなんとなく納得がいった。こいつはきっと、由美さんで遊んでいたんだ。どうやってこんなこんなことになったのかは知らないが、とにかくこいつが楽しそうにしているのはムカつくな。


「あ! 淡水魚さんチーッス」

「歩な。阿子ちゃんもチーッス」


 二人は敬礼風の挨拶をする。完全に話しの流れに追いついていない由美さんは、一人放心状態だった。


「えっ? どういうこと?」

「何を勘違いしてたのかわからないけど、この子は古谷阿子。俺と鈴木の共通の後輩だよ」


 由美さんは阿子を一瞥してから、鬼のような形相で鈴木を睨んだ。


「騙したね鈴木君」

「ありていに言えば」

「ふん!」

「ごふ!」

「ほんっとサイテー!」


 強烈なボディブローが叩き込まれ、鈴木は地面に伏した。まあしかたないことだな。

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