成功はしたんだよ…
「……」
俺は今、危機に直面している。
何故かと言うと、バレンタインに真澄がオーブンを破壊して外に出たかと思えば、由美さんと一緒に戻ってきて、お菓子を作ったので食べてくれということになったのだ。
これだけ聞けば、可愛い妹がわざわざお菓子を作って来てくれたということになるのだが、生憎と俺はそんなことは考えられない。
真澄は病的なまでに、お菓子を作ることができなのだから。
形はいいんだよ、形はね? ただ味がね? 魔改造されてるんじゃないかと疑いたくなるほど不味い。あれは人が食べれる代物ではない。
真澄から手渡されたのは、なぜか熊の木彫り型のチョコだった。
期待の眼差しで見られ、その後ろにいる由美さんからは不安そうな眼差しで見られている。恐らくは真澄の菓子作りに手伝わされたのだろう。すみません。今度お礼に買いにいきますので。
ただ食べない訳にはいかない。大丈夫だ。もしかしたら由美さんのおかげで、かろうじて食べれるレベルまでになっているかもしれない。そう信じるしかない。
それに、真澄に悲しい顔はさせたくない。
「いただきます」
熊の頭を齧る、最初はチョコの味がして――あっ、これもあかんやつだ。吐き出し
たい。でもこれ……なんとか飲み込まないと。
「……うん。美味いよ!」
無理した笑顔を見せる。真澄はそれで少なからず騙されるので問題ない。だが後ろで見ている由美さんが涙目だった。
「真澄。水を持って来てくれないか?」
「うん」
上機嫌に台所に行く真澄を見送り、俺は由美さんに振り返る。
「綴君。頑張ったね」
「……はい」
「ただね……もう真澄ちゃんにお菓子は造らせないほうがいいと思うんだ」
生気のない顔の由美さん。本当に――。
「……本当にごめんなさい」
このチョコは、責任を持って全部食べます。
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