妹の休日は長いのである

「ただいま~」

 お兄ちゃんのその声で、私の意識は覚醒した。

 どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしく、テレビ画面はやりっぱなしのゲーム画面。コントローラーは床に転がり、今か今かと信号が送られるのを待っている。

 私は眠気眼を擦りながら、ソファから起き上がる。

 リビングのドアが開いたと同時に、がばり、と帰ってきたお兄ちゃんに抱きついた。

「お帰り」

「おう。ただいま」

 外の匂いに交じってお兄ちゃんの臭いもする。落ち着きます。

「真澄」

「ん~?」

「手が洗えないから、離れてくれないか?」

「お~」

 手が洗えないんじゃしかたがない。

 私はお兄ちゃんから離れ、台所に引っ込む。そういえば夕飯作れって言われていたんだったよ。

「何しよ……」

 昼は中華だった。まらば夜はイタリアンか?

「パ~スタ~」

 確か買い置きしてあるトマト缶があったはず。それにソーセイジと鶏肉……卵もいいかな。オムレツ作って乗せて食べる。オムパスタ。新境地っぽい。

 今日の献立が決まり、さっそくとりかかる。

 手を洗い終えたお兄ちゃんが戻って来て、「今からかよ」と言う顔をした。寝てたんだからそんな顔しないでよ。

「今日はなんだ?」

「オムパスタ」

「……なんだそれ?」

 ふっふっふ~。それは出てからのお楽しみ。

 困ったお兄ちゃんの顔は、なんとも可愛く写ってしまう。

「お兄ちゃん」

「ん?」

「ん~。やっぱいいや」

「? まあいいか」

 今朝のことを思い出したが、口にはしなかった。なんていうか、まだしない方がいいかなって思ったのだ。私の勘だけど。

 でもやっぱり、本当にこう思うってことは、私はお兄ちゃんのことが好きなんだな~と、改めて実感した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る