田中さんの優鬱

「はぁ……」

「どうかした?」

「あ、いえ。なんでもないですよ。真澄♡」

 真澄は「それならいいけど」と言って、また宿題の方に戻る。

 いけない、溜め息がこぼれてしまいましたか。愛しの真澄の前ですから、気をつけなければいけませんね。

 それにしても……。

 チラリとリビングでレポートを片づけている、綴さんとそのお友だちを確認します。

 なんでこうも真澄と二人っきりになれないんでしょう? やはり私の家にすればよかったかしら……。

 少しも前回のことを見習わなかった自分が恨めしいですわ。もし真澄と二人きりだったらあ~んなことやこ~んなことができましたのに。非常に残念ですわ。

「……ちーちゃんどうかした?」

「へっ!? 別にどうもしませんよ?」

「そう? 一人顔芸大会でも開いてるのかと思ったよ~」

 ニヘラと柔和な笑みっぽいものを向ける真澄。その姿は非常に可愛らしいですわ! 写真に収めたいくらい!

 ですが迂闊でしたわね。真澄の前で緩んだ顔を見せてしまったみたいですわ。反省反省。

 それはそうと……。

 またチラリと向こうを確認する。すると、綴さんのお友だちと目があった。笑顔を向けてくるので、こちらも愛想笑いを返す。

 なんですのあの人? なんでこちらに意識を向けているんですの。それに妙な悪寒が先ほどからするのですが……。

 あの人がこちらを注目しているのは明白なのに、目的が見えないんですよね……まっ! まさか!

 あの方も真澄を狙っているんですの!!

 だとしたらこちらをチラチラ確認しているのも理解できます。

 させません。させませんわよ! 真澄の純潔は私が守ってみせます!

「ちーちゃん今日ご機嫌だね」

「はっ!」

 いけない。また変な顔をしてしまったのでしょうか。

「でも、そんなちーちゃんも可愛いね」

「……ありがとうございます♡」

 いや~♡ 可愛いって言って貰っちゃいました~♡ でも、真澄の方が百倍可愛いですよ♡

「それじゃあ早く終わらせちゃいましょ♡」

「そだね~。お兄ちゃんたちとも遊びたいし~」

「…………」

 やはり、選択を間違えた気がします。

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