気だるい兄γ

「あらんどろんふざいでした~」

 書籍を買ってくれたお客様にお辞儀をして、またボーっとし始める。

 今日はバイトで、俺の働くバイト先は近くの本屋。あまり繁盛してなくて、適度にさぼれるからという理由でこの場所を選んだ。お陰さまでもう店内に人はいない。

「……」

 いい暇さ加減だ。

 一人でこの時間を堪能していると、店の自動ドアが開く。

「えあろすみす~……」

 見たことあるジャージのズボンにぶかぶかのパーカ。フードを深く被りマスクをしている。そんな強盗のような格好をしているのは、俺のじつの妹である佐藤真澄。

 圧倒的センスの欠片もない服装だが、これが私服だから問題ない。

「真澄」

 わざわざ家を出てまでここに来た理由があるのだろう、話を聞いてそうそうにお帰り願おう。

「何お兄ちゃん?」

 いつもの気の抜けた声で応える。

「……」

 俺はジッと眼を見つめると、何を言いたいのか察したのか、取りあえずフードとマスクを外した。

「ちゃんと真澄だよ」

「それは知ってる」

 ちゃんと伝わってないようだ。

「真澄、何かあったのか?」

「え? 何もないけど? 何で?」

 そうか。何もないのか、ならよかった。

 それ以上会話するのも面倒なので、一人納得した俺は黙ってレジに立つ。

「ねえお兄ちゃん」

「なんだ真澄?」

 真澄はちょいちょいと顔を寄せるように手招きするので、顔を近づける。真澄は耳元で呟いた。

「お兄ちゃんってエロ本買うの?」

 デコピンしてやった。

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