calling
○1 ☓☓湖・外観(日中)【夢】
青々しい森林に囲まれている湖。
手前側の湖畔にボートハウスと浮桟橋。
湖の入り口に立て札。
S「☓☓湖」
湖奥手の水面が、小さく盛り上がってくる。
○2 同・湖上【夢】
中央分け目の長髪女性――
る。
鼻頭まで水面上に出ると、閉じられていた目をパッと見開く。
○3 山ノ目家・悟の部屋(朝)
ベッドで寝ている
悟、ハッと目を見開く。
屋外から蝉の声。
悟、身を起こし、頭を押さえる。
悟 「……まさか」
○4 同・リビング
食卓についている悟と父・山ノ目
鋭輝は新聞を読んでいる。
スマホを見ている悟、表情が恐ばむ。
悟 「……ねえ、☓☓湖って、俺、行ったことあったっけ?」
鋭輝「藪から棒だな」
台所で味噌汁を味見中の山ノ目
千鶴「あら、懐かしい。昔、お父さんとよく行ったわね、ボートデートしに」
鋭輝「(気恥ずかしさを紛らす咳払い)」
悟 「(溜息)で、どうなの?」
千鶴「冬にハクチョウに餌あげに行ったりしたわよ。だいぶ小さい時ねぇ。なん
で?」
悟 「ううん、なんでも。――(安堵の笑みで、ぽつりと)なんだ、見たことある場
所か」
鋭輝「……(悟をじっと見ている)」
と、室内隅にある家電が鳴り出す。
千鶴「朝っぱらから誰ぇ? 悟、お願い」
悟、スマホを食卓に置き、立ち上がる。
悟、家電に出る。
悟 「はい、もしもし」
受話口から、水の中のようなボコボコとした異音。
悟 「……?(不審げ)」
受話口から女性(雪那)の声。
雪那の声「(か細く)私を見つけて」
☓ ☓ ☓
(フラッシュバック)
水面から頭を出している雪那。
☓ ☓ ☓
悟 「ッ!?」
悟、受話器を叩きつけ、電話を切る。
千鶴「ちょっとちょっとぉ?」
悟 「……間違い電話だった」
千鶴「もう、乱暴なんだから。――じゃ、ご飯できたから運んでちょうだい」
悟、台所に向かう途中、立ち止まって鋭輝を見る。
鋭輝「――(何か問たげに悟を見ている)」
悟 「……(目をそらし、歩みを再開)」
食卓に置かれたスマホ。
その画面。画像検索バーに『☓☓湖』の文字と、シーン1と同じ場所の写真が
何枚か表示されている。
BGM。ショパンの『ノクターン第2番 変ホ長調 Op.9-2』が流れだす。(後
続シーンへ続く)
○5 ☓☓湖・水面(日中)【夢】
手こぎボートが一艘浮いており、その上で悟が仰向けで寝ている。
○6 同・手こぎボート上【夢】
ラジオが、座板に置かれている。
ラインを垂らした釣り竿が、ボートの縁に固定されている。
悟、目を覚ます。身を起こして首を巡らせ、釣り竿を見つける。
釣り竿が、大きく二度、しなる。
悟 「(ぽつりと)上げなきゃ……」
悟、釣り竿を手に取り、リールを巻き始める。
ギリギリと重い音を立てるリール。大きくしなっている竿の先端。水中の奥深
くへ潜っているライン。
ノクターンを流していたラジオが、自動できゅるきゅるとチューニングされ、
ニュース報道の音声に切り替わる。
男性の声「――行方がわからなくなっているのは、☓☓市に住む、高校一年生の中原
雪那さんです」
水中奥から、膨らんだスクールバッグが浮かび上がって来る。
悟、縁に掴まり、水面に手を入れる。
男性の声「今月13日、雪那さんは高校から帰宅途中、自宅最寄りの駅で、改札を出
る姿が防犯カメラに捉えられたのを最後に、行方がわからなくなっているとのこと
です」
ボートの床に引き上げられた、膨らんだスクールバッグ。ウサギのぬいぐるみ
が側面に吊られている。
男性の声「雪那さんは制服姿で、ウサギのマスコットが取り付けられたスクールバッ
グを持っていました。携帯電話に掛けても、呼び出し音がならず、現在も、つなが
らない状態です」
悟、棒立ちでバッグを見下ろしている。
スクールバッグのジッパーがひとりでに開き出す。
○7 スクールバッグ内部からの視点【夢】
ジッパーが下がっていく。バッグの口が徐々に開かれ、空が垣間見えてくる。
そして、恐れおののいている悟の姿が露となる。
男性の声「警察は、雪那さんが何らかの事件に巻き込まれた可能性があるとみて、本
日から公開捜査を行うことに――」
ラジオの音声がプツッと途切れ、
ジッパーが開ききり、
雪那の声「私を見つけて」
○8 山ノ目家・悟の部屋(朝)
ベッドで寝ている悟、弾かれるように上半身を起こす。
屋外から蝉の声。悟の荒い呼吸。
掛け布団に水滴がポツポツしたたる。
悟、汗まみれの顔を埋める。
悟 「嘘だ……(顔を振り)嫌だ嫌だ嫌だ」
○9 テレビ画面
日曜朝の報道番組の映像。
制服姿の雪那の写真(学生証写真)が、一面に映しだされている。
画面右上のテロップ。
S「☓☓市の女子高校生 行方不明」
画面下のテロップ。
S「高校1年 中原雪那さん(16)」
男性キャスターの声「雪那さんは制服姿で、ウサギのマスコットが取り付けられたス
クールバッグを持っていました。携帯電話に掛けても、呼び出し音がならず、現在
も、つながらない状態です」
○10 同・リビング
悟、行方不明者報道を映すテレビの前で、愕然と立ちすくんでいる。
悟 「……同じだ」
鋭輝の声「呼ばれたんだな?」
悟、振り返ると、背後に鋭輝が立っている。
悟 「……(顔を伏せ、小さく頷く)」
○11 同・座敷
鋭輝、仏壇の前に座り、線香をあげている。
鋭輝「変わってやれればいいんだが、やはり孫へと引き継がれてしまうようだな」
仏壇に、祖父・山ノ目
悟、鋭輝の後方に立っている。
悟 「……(暗い顔で俯いている)」
鋭輝「(振り返り)悟、手順はわかってるな。祖父さんから聞かされた通りやればい
い」
悟 「(食って掛かる)俺が行かなくったって警察が――」
鋭輝「〝警察が回収できるのは肉体だけじゃ〟――だったろう?」
悟 「……(また俯いている)」
鋭輝「☓☓湖、なんだな?」
悟 「……(頷く)」
鋭輝「水の中なら、早いほうがいい。親御さんのためにも」
悟 「……少し、考えさせて」
悟、座敷から廊下に出て行く。
○12 同・リビング
千鶴、ひとりで食卓に着き、テレビを見ながら朝食を食べている。
悟、入室。
千鶴「なにしてたの? 食べちゃってたわよ。お父さんは?」
悟 「座敷で線香あげてる。もう来るよ」
千鶴「そう」
悟、食卓に移動していく。
と、家電話が鳴り出す。
千鶴、テレビのリモコンを操作しつつ、
千鶴「悟、立ってるついで」
悟 「……(立ったまま家電を凝視する)」
千鶴「(テレビ見たまま)悟」
悟、深く息を吐き出し、受話器を取る。
悟 「……もしもし」
受話口から、水の中のようなボコボコとした異音に続き、雪那の声。
雪那の声「(か細く)私を見つけて」
悟 「……(目をギュッと閉じ、受話器を持つ手が小刻みに震わせている)」
千鶴の声「心配ねぇ……」
悟、千鶴を見る。
千鶴、テレビを見ている。
○13 テレビ画面(中原家の客間)
シーン9と別な報道番組の映像。
雪那の母・中原
画面右上のテロップ。
S「高校1年生 13日から行方不明
無事を祈る家族」
画面下のテロップ。
S「雪那さんの母 那穂さん(43)」
ハンカチを手に、涙ながらの那穂。
那穂「娘が、雪那が、一刻もはやく、無事で帰って来てくれることを、祈るばかりで
す。どうか、ご協力、お願いします」
那穂、深々と頭を下げる。
○14 戻って、山ノ目家・リビング
食卓でテレビを見ている千鶴。
千鶴「はやく帰ってくればいいわねぇ……」
悟、受話器を耳に当て、千鶴を見ている。
受話口から雪那の震える涙声。
雪那の声「
鋭輝、リビングのドアを開けて入室し、悟を見る。
悟、鋭輝を見て、受話器に、
悟「……わかった、迎えに行くよ」
鋭輝、悟に頷き、食卓につく。
雪那の声「……ありがとう」
通話が切れる。
悟、受話器を家電に戻す。
○15 タイトル『calling』
[END]
【シナリオ】 calling のうみ @noumi
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