第二章 Player Must Die

第一話 始まりの街Ⅰ

 ててて、と小走りで海人が駆け寄ってくる。

 俺は女二人を放置して街を見に行くことにしたわけだが、コイツが来てくれるなら助かるな。


「景虎! て、デリー松本? どっち?」

「どっちでもいいよ、今はペットの『はんぺん』にINしてっから、本当ははんぺんだけどな。」

 さらに混乱したらしい。


「スライムって、ふつーはゼリー関連で名前付けるもんじゃないの? はんぺんってなに?」

「俺、ペットにおでんの具材名付けてるからなー。そんなに深い意味はないぞ。」

「デリーはんぺん景虎?」

 いや、漫才師でももちょっとマシなネーミングするだろ。


「落語じゃねーんだから。どれでも好きに呼べばいいって。で、なんの用だ?」

「これから街の中、見に行くつもりなら連れてってもらおうと思って。好きに呼べとか言ったら、おでんって呼ぶぞ。」

 それはヤメロ。


「景虎の知り合いって女エルフ、あれ、ほんとにカノジョなの? すげー美人だけど、リアルも美人? 会っていきなりキスとかしたじゃん、すげーね。」

 なんだその憧憬の眼差しは。


 VRゲームじゃ、割と普通のことだぞ、バーチャル内だけでのお付き合いとかまであるんだから。かつてのMMOとVRMMOとは根本的に常識が違うって。非モテ男のたまり場じゃない。

 リアルでの付き合いには厳しい世間も、バーチャルじゃ問題が起こりにくいからそっち方面はユルいんだよ。


「お前の方こそ、なんでそんなショタな格好にしたんだよ? 普通に大人のポーズ取ってりゃ、誰でもモテるぜ?」

「俺、リアル中坊だもん。」


 むすっとして海人がボヤいた。ああ、VR規制ね、18歳まではロリかショタしか設定出来ない縛りがあるんだわ。

 そんで幼児、小学生はVR禁止。

 近所に住んでる例の肉食エルフも、実年齢は今年やっとこ18だからな。こないだまでゲーム内じゃロリロリしてた。だから余計に色気なんざ感じない。


「くさるな、少年。18なんてじきだよ、じき。」

 ぐしゃぐしゃと髪の毛かき回してやったら、怒った海人に振り払われた。

 とにかく今は、問題になってるっていう街中を実際に見に行くのが先決だからな、とっとと出発だ。

 手近な門をひょい、と潜った。


 城門を抜けると、そこはダンジョンでした。


 突然に開ける街フィールド、街の建物自体は見慣れた景色だ。けど、NPCがまったく居ない。街を歩く数人の住民NPCの姿は無く、代わりに魔物が跋扈していた。


「て! どうなってんだ、これ!?」

「ヤバいよ! 逃げよう、景虎!」


 うろついてるエネミーは、上位クラスの凶暴な奴等だ。しかもエンカウントしまくって放置されてたんだろう、うざいくらいに大量に涌き出ている。狭い路地にまで、何頭ものスケルトンハウンドが見えた。草原でやりあった灰色狼を骨にしたような連中だ。コイツ等のが段違いに強いけどな。


 どういうことだ? 街がフィールドタイプのダンジョンと化してやがるのか?

 まさか、レイドボスまで涌いてんじゃないだろうな。


 こっちに気付いたスケルトンオーガが、棍棒を振り上げた。骨の巨人だ。一つ目の目玉だけ残ってる。

 えーい、うぜぇ! 棍棒を避けて、パンチの一撃で粉砕。


「海人! 道具屋に逃げ込め!」

 門を出るよりそっちのが早い。


 フィールドチェンジの誤差で、入る時は一歩でも、入った場所は門より数メートル先の地点になってるんだ。石畳の街路、俺達がINした地点の真横の店が入店可能の建物だ。

 中までダンジョン化してたとしても、フィールドの無限涌きを相手にするよりはマシだ。


「いらっしゃい、今日は何が必要なんだい?」

 型通りの定型文でNPC男性が話しかけてきた。良かった、店の中はマトモだ。


「景虎、アイツ等って確か魔王城地下ダンジョンの奴等じゃねぇ?」

「たぶんな。」


 初期の頃、メインストーリー上のラストボスが魔王だったんだが、近年になって追加されたシナリオでさらに上のボスが登場したんだ。それが、この魔王城地下ダンジョンの最深部に潜むレイドボス、暗黒竜だ。


 ボスも破格の強敵なら、その周囲を固める雑魚エネミーまでが破格。とうてい新人辺りが相手に出来る奴等じゃないし、デスゲームと化してる今の状況では上級者だって相手にしたくない奴等だ。

 廃人クラスの上位プレイヤーが5~60人でやっとギリギリ攻略出来るっていう地下フィールドだ。その間、プレイヤーは何度殺されるか解からないっていうオマケ付きで。


 コイツに合わせて、近々、プレイヤー強化のアップデートが来るって噂が出ていたんだが。間が悪ぃ。


「とにかく戻ろう、アイツ等の相手なんぞマトモにしてたら、命が幾つあっても足りねぇ。」

「うん、解かった。街の外の連中、皆締め出されてたんだな。」

 まさかこんな事になってるなんて、誰にも予測できるわけもないからな。


 その時、またどこからともなく、アナウンスが流れ始めた。


『運営からのお知らせです。現在、ゲーム暴走が起きています。各街より速やかに脱出してください。なお、激痛を受けた衝撃でショック死するケースが御座います、無暗に戦闘をしないようご注意ください。プレイヤー各人で協力し、なるべく多数で移動する事をお勧めしております。チュートリアル・フィールドの始まりの街に、ゲームのログアウト地点を設けてあります。お急ぎください。』


 まるで緊張感のないガイダンス。

 まさか、運営はこんなバグが起きてるって気付いていないとかか?


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