第八話 残念な美少女エルフ

 突貫で突き進んでようやく『始まりの街』へ到着だよ!

 城門見えてきたー! やっとログアウト出来るぜ!


 ん? なんか微妙な違和感が。

「景虎ー、なんであんなにテント立ってるの?」

「なんか人が沢山居る……、どうしたんだろ?」

 お子様'sが口々に問いかける。どーでもいいが、俺の服の裾を両方から引っ張るな。


「あいつ等、ログアウトしねーのか? なんで皆して溜まってんだ?」

 独り言で呟いてみても、果てしなく嫌な予感しかしねーけどな。


 街はぐるりと高い城壁に囲まれている。もちろん、城下町って設定じゃないんだが、白いレンガ壁で街全体を囲ってある。モンスターが多い地域で、防衛の必要があるために各街は城壁を設けているって事になってる。

 門戸の類はなくて、フランスとかの凱旋門みたいなののミニチュア版が四方に置かれていて、そこからプレイヤーは出入りするようになってるんだ。


 峠の時にそうだったように、外見はそうでもないけど、中に入ればだだっ広い街フィールドが現れる。

 街の中央広場にログアウトの為のゾーンが設けてあるんじゃなかったのか?

 なんでこんなに沢山のプレイヤーがテントなんか設営してるんだ?


 テントはカラフルなツートンカラーで、街の道具屋に売ってる。こじんまりしたもんで、見た目はこれもやっぱり人間一人が立ってるのが精一杯じゃねーのってくらいの小ささだ。中に入れば広々して、5人いっぺんに寝転べるし、絨毯が敷かれて、真ん中に囲炉裏風の丸い暖炉がある。ゲームってのはそこらへん、色々とテキトーだ。


 小さなテントが城門の外の草原地帯に、多数、所狭しと張られている。テントは街が遠い場合の中継セーブ地点の役割を果たすもので、こんな街のすぐ傍に設置するもんじゃないんだが。

 その数、ざっと見回しただけでも50はあるんじゃないか? おかしいぞ。


「お、お前ら新参か?」


 立ち尽くす俺達に後ろから声を掛ける者がいて、振り返ったら見知った知人だった。美少女のエルフが颯爽とその長い金髪を風になびかせて立ってる。肌は抜けるような白、手足は長く細くすらりとした長身だ。で、小生意気な笑顔。

 白銀のプレートアーマーはちょい露出過多でヘソが丸見え。ビキニタイプの胸当てからむっちりした肉がはみ出さん限りで、お前、それ絶対サイズ合ってねーよ。巨乳ってワケでもねーくせに見栄っ張りが。


「おー、俺だ、俺!」

「ダレ?」


 すっとぼけやがった。ステータス覗きゃ一発で誰か解かるだろうがっ。

 コイツを相手にするのは疲れるから、今は出来れば遠慮したいとこなんだけどなー。

 しかたねぇ。


「俺だ! 『悠久の追憶(エターナルメモリー)』のデリーだ!」

「おお! デリー松本か! なわけねぇだろ! デリーは筋肉ダルマだ!」

 一人ノリツッコミで肩を思い切り叩かれた。


「松本ならば、合言葉を言え!」

「そんなモンいつ作った!?」

「今だ!」

「知るかそんなモン、死んでこい!!」

「よし合格だ、殴りたくなるくらい憎たらしいから確かに松本だ!」


 ばんばんと両肩を叩かれる。コイツの相手は滅茶苦茶疲れるな、やっぱ。

 お子様'sもポカンとして俺達のやり取りを見てるよ。


 このガサツなエルフ美少女は俺の所属ギルドの知り合いで、しょっちゅうツルんで遊んでたヤツだ。これが本気で中身も女だなんて誰もが諸行無常を感じざるを得ない。


 ギルドカードの自己紹介文もヒデーもんで、「お姫様プレイさせてくれる優しいヒトとトモダチになりたいれす☆」とか堂々と書いてるマジモンのイカレ女だ。名前は『姫』だ。ふざけ過ぎだ。

 本人いわく、そう書いてると変な直結に絡まれなくて済むから、だそうだけど、どこまで本気かは知らん。直結ってのは、ナンパ目的でゲームやってるプレイヤーの事ね、因みに。

 ついでに言うと、俺の近所に住んでる女だからリアルでも知り合いだ。このプッツンとは。


「で? なんでお前、そんなイケメン被ってんの?」

 今ごろ聞くのか。


「ペットでINしてたんだよ、最初は。で、鯖暴走でコイツ等と知り合って、この皮はそこのロリっ娘のモンだ。」

「皮とか言うしー。て、なんでペットINしてんのに上から皮被ってんだよ? バグ?」

 小首をかしげると長い髪がさらりと流れた。黙ってりゃ申し分ない美少女なのにな。リアルでも。無情過ぎて涙が出るよ、俺。


 首を斜めにしたまま、返事寄越せとばかりに俺を見ているプッツンエルフ。

 そういう事にしといてくれ、とばかりに俺はうんうんと頷いた。説明出来ん、面倒くさい。


「ほれ、これ見りゃ信じるだろ?」

 口を開けて、中に指を突っ込んで蛍光ブルーの本体を一部摘まみ出した。口一杯に詰め込まれたが如くに見える青いゼリー状の物体。お子様二人が後ずさる。そろそろ慣れろ、お前ら。


「カエルの死骸みてー。きもっ。」

 顔色一つ変えねーくせして毒舌だけは達者だな、お前は。


 ごくん、と本体を飲み下してこっちからも質問。

「で、ここはどうなってんだ? 皆どうして中に入らないんだ?」

「あー、それも説明しにくい……てか、説明出来ない。実際に入って見て来たほうが早いんだけど、それするのもマズいっていうかー。」

 顎をしゃくって姫が城門を示した。


「あ、デリー景虎。」

 城門に目を向けた途端にエルフ女が声をかけて。

「だから俺の名前をテキトーに作るなって……、」

 振り向いた拍子にキスされた。


 ん? なんだ?

「今のお前、すっごいイイ感じ。キスしたいくらい。」

「したじゃねーか。」


 いかん、平静を保つのに苦労する。ほんと、突拍子もないな、この女は。(カエルの死骸扱いだったくせに。)


 唇を意味深に舐めるな、上目遣いとか胸の谷間強調するとかもヤメロ、お前の魂胆は解かってるぞ。

「イケメン連れて歩くとすっごい気分イイよねーっ。」


 流し目を送り付けながら周囲に宣言しやがった、この男はあたしのよっ、て。

 姫プレイがしたいだけなんだ、この女は。

 しなだれかかって、俺の前で目を閉じてキスをせがむ。軽く唇を開いて、衆人環視の中で、何考えてやがる。

 キスの代わりに鼻をつまんでやった。

 この肉食エルフが。


 だいたいリアルでもどんだけコイツに振り回されたか知れねー。

 タクシー代わりに使われるわ、飯は奢らされるわ、キスから先は完全ガードだわ、天下のディズニーランド内ホテルですっぽかし食わされるわ……あ、思い出したら腹立ってきた。


「ちょっとぉ! 景虎はあたしのなんだからねっ!?」

 チビが間に割り込んだ。

「えー、なになにデリー、お前、ついにロリコン走っちゃった?」

「なワケねぇだろ。」

 ムカついてた気分が萎む。


 姫はしゃがみ込んで、ルナに視線を合わせると、保母さんみたいな口調になって言った。

「あのねぇ、お嬢ちゃん。コイツとあたしはリアルでもお付き合いあんの。解かる? リアル彼氏なのー。カ・レ・シ、解かる?」


 俺、お前と付き合ってるって今、初めて聞いたわー。ははは。

 テキトーなこと言うなぁ、相変わらず。


 膨れっ面のルナに合わせて、エルフな彼女も、ぷくっ、と頬を膨らませてからかうように言う。

「他人のモノ盗っちゃうのは頂けないなぁ?」

「他人のモノでも、カレシは盗ってもいいんだよ?」

 わぁ、女ってコワイ。ガキんちょが一瞬、『オンナ』に見えたぜ。


 二人して火花散らしてなに張り合ってんだよ、こんなトコで。

 それどころじゃねーだろー、まったく……。


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