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 第二階層は、これはどっかで見たような覚えのある古ぼけたバーの廃墟だ。くもの巣が張ったピアノ、ダンサーが踊る小さなステージ、二階への階段、レンガのむき出した壁……。

 唐突に思い出した、ここは、クラブ『30'』だ!

 キングオブポップス、音楽シーンに名を残すレジェンドの、あの映画か!


 にわかに興奮が巻き起こる。心臓がバクバクと打ちつける。

 バーチャルシアターで、どれだけ彼のプロモート映像を眺めた事か。色あせない本物だけが持つ、時間さえ超越したエンターテイメント。一周回ったところの斬新さだ。

 音楽が聞こえる、あの前奏だ、何回聴いたかもう回数も覚えていない。レジェンドがスポットライトを浴びて、ごく薄い幻影だった彼が、徐々にくっきりと、かつての雄姿をステージの上に呼び戻していく。

 す、すげぇ。

 擦り切れたデータテープの修復映像を遥かに越えた、最新のバーチャルリアリティ技術だ、熱狂的なファンのなせるわざ、執念じみた熱意は死の世界の壁をも越える。

 夢遊病者のように、俺は一歩を踏み出していた。特徴的なあのステップ。目の前で見たい。


 そこへ、ステージダンサーならぬ、ステージエネミーのゾンビが大挙して割り込んだ。

 てめ、ちょ、観えねー!!


 ああっ、マイケル&ゾンビダンサーズの『スリラー』が始まった! 天井からはボロボロとゾンビが落ちてきて、ホールはいつの間にか満タンだ! くそ、行く手を塞ぐゾンビが邪魔で、マイケルが、見えん!!

「景虎、助けてー!」

 幼女の悲痛な叫び。

 返す俺の鋭い返答。

「後でな!」

 俺は並み居るゾンビを蹴散らしてマイケルを見に行くのに忙しい!


 マイケルとゾンビの超絶パフォーマンスが気になって、戦闘に集中出来ない。かぶりつき最前列で見れるチャンスなのに、邪魔なんだよクソゾンビ!

 そういや、掲示板でも誰かがボヤいてたな、ボス戦闘がどうしてもスキップ出来ないって。戦闘キャンセル不可なのかとか思ってたけど、これは見逃せないわ、確かに。キングオブポップスの生ステージなんて、キャンセル出来るわけがない。

 そういうわけだから、ガキ共、お前らなんとか自力で生き残れ。


 ムーンウォークでマイケルがつぃーーーん、て。

 感動したー。

 ラストのラストはあれだ、お馴染みのあの笑い声。

「わぁーっはっはっはっはっ……」

 大量の無限沸きゾンビに揉みくちゃにされながら、暗転。


 再び視界に光が戻ると、俺たち三人はホーンテッドダンジョンの舞台となった洋館の、裏庭に立っていた。カイトとルナが両脇から俺の脚をガスガス蹴っ飛ばしてやがるが、俺は感動の嵐で寛大な気分だった。


「酷いよ! 景虎!」

「そーだよ、言ってる事とやってる事とぜんぜん違うじゃねーか!」

 俺が守ってやる、とか言ったっけな、そういえば。


 裏庭の広場には、クリア報酬の宝箱が三つ並んでいる。あれで一応クリアになるのか、なるほどねぇ。

「解かった、解かった、俺が悪かったよ、二人とも。それよりほれ、報酬貰っとこうぜ。確か、霊体モンスターに絶大な威力を誇る武器だったはずだ。」

 タイアップ時の封切映画が、アクティブ神父によるバイオレンスなヴァンパイア討伐活劇だったはずで、映画の中にも出てきた小物のブーメラン武器が貰えるはずなんだ。聖書を模したケースには白銀に輝くゴシック調の十字架が入っていて、手に取るとずしりと重い。

 こいつを投げれば、リモート状態で投擲者の手に戻るようになっているが、もちろん投擲のスキル持ちじゃないと使えない。細工があって、十字の先に刃が飛び出す仕掛けになっていた。


「うわぁ、カッコイイー!」

「堪能しとけ。どうせバグが直ったら没収だからな。」

 カイトはかなり残念そうだ。ソロだとこのダンジョンはキツイだろう。

「ふーん、だからその服、ずっと着てるの?」

 ルナがぐるっと一周して言う。俺はもう新たに入手した衣装にチェンジしている。これもタイアップの目玉アイテムで、アクティブなバイオレンス神父が着ていた僧服だ。執事服より俺好みのゴシックスタイルな衣装だ。

「イベントの時に入手出来なかったんだって。今年、改めて入手するからいいさ。カイト、お前もその武器が欲しいんなら、俺に連絡してこい。メンバー集めてやるから。」

 ウミンチュはまた、瞳をうるうるさせて頷いた。


「あ、峠終わったよ!」

 それから先はコミカルボーンどもが屯ってる峠道のフィールドで、唐突にフィールドチェンジが来たと思ったら、今までの風景が見えないラインを境にガラリと様変わりだ。荒れた峠道のゴツゴツした岩の断崖に両脇を挟まれた、狭い道だったものが、広々と開けた平原に変わった。

 <始まりの街>までは、あと少しの距離だ。


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