6-4
「景虎、大丈夫?」
ルナが目を覚ましたのはそのすぐ後だった。悪い夢を見たとでも思ったらしく、ゾンビ景虎の記憶はすっぽ抜けているようで、怖がってはいない。まぁ、記憶があったら厄介な事になっただろうから、丁度良かったとしとこう。俺は顔の位置を微調整しながら頷いた。鼻が曲がったりはカンベンしてほしいとこだ。
うん、なんとかくっついたな。景虎の顔には、鼻と両の頬に大きく引き裂いた傷跡が残されたけど、きれいにポリゴンの肌はくっついた。頭部切断は無かったことにされたらしく、側面、後頭部には何の形跡もない。ダンジョン仕様のパッケージとの混線も途切れたようで、景虎は普通の状態に戻っている。傷が付いちまったけど。
ルナはまた頬を膨らませて怒ってやがるが、仕方ない事だ、文句は聞けないな。なかなかワイルドな感じになって、俺個人の感想としては悪くないんだけどな。
このゲーム、最初の設定で歴戦の傷跡を残すかどうかを選択するんだが、俺がYESを選んでいたからこうなったらしい。致命傷に当たるような傷はボディに記録されるから、元々の俺のアバターキャラも傷だらけだ。
メガネがぶっ飛んでどっか行っちまったけど、俺的には元々好きじゃなかったからオーライだ。
「さてと。なんでこんな事考えたのか、理由を話してもらおうか?」
「そーだよ! おかげで景虎の顔に傷が入っちゃったじゃん!」
お前の問題はそこか。がっくり来た俺を無視して海人はぼそぼそと喋り出した。
「だって、ソロで行かなきゃいけなくなっちゃって、だけどやっぱりソロだと厳しいんだもん、チート武器も回数制限あるし、もう底をついてきてるからヤバいなって思ってて……、チート無しじゃ、独りでなんて絶対に街にたどり着けないもん……、だから、俺……、」
ついに、ぼろぼろと涙をこぼして泣き始めた。独りでって、チート武器捨てて素知らぬ顔してどっかのチームに拾ってもらえば良かったんじゃないか。お子様ってのは良くも悪くも素直で困るぜ。
溢れてくる涙を懸命に手でぬぐって、今までどれだけ張り詰めた気持ちでいたのかが解かる。そんなに器用には生きられないよな、手のひら返すみたいにはさ。取り上げたチート大剣のアイテム設定欄を見れば、残り使用回数は10回を切っていた。
まぁ、あれだ。デスゲームになると色々と狂ってやがるんだよ。(主に人の心が)
「ねぇ、景虎。もういいじゃん、許してあげなよー。」
だからなぜお前は勝手に俺が激怒してる設定にする?
「許すも許さんも、どーせコレ俺のじゃねぇし。ルナがいいって言うなら、それでいいんじゃないか?」
「あたし、別になんとも思ってないよ! チート使ってたら仲間外れだもんね、一緒に行こうよ!」
うんうん、お前はノーテンキだけど、天使だな。
ウミンチュはうるうる目でルナを見て、またひとしきり泣きだしやがった。
「よし、話がまとまったとこで、さっさとこのフィールド抜けちまおうか。」
ルナのプレイヤースキルはお粗末なもんだが、海人の方はなかなかだ。別にチート武器使わなくても、連係出来りゃそれなりの強さを発揮して、攻略は格段に楽になる。充分役に立つ腕前持ってんだから、チート使ってたからって、この世の終わりみたいに絶望しなくたって良かったんだ。バカ正直に立ち回るばかりが能じゃない、そん時周りに居た連中もたいがいチート持ってたに決まってんだろ。も少しズルくなれや、お子様たち。
「とりあえず、このダンジョンの攻略が先だ。バグって期間限定の措置が外れてんだろう。先に言っておくが、俺もたいがいバグってるから、この先で何が起きても責任は持たん。運を天に任せて祈れ。」
堂々の無責任宣言だ。このくらいの図太さはあっていいんだぞ、それが大人ってヤツだからな。
ちょこっとカイトが引きつった顔を見せたが、相変わらずルナは平然と顔色も変えなかった。ただのノーテンキなのか、別に理由があるのか、なーんか引っ掛かるんだよなぁ、コイツは。
ハリウッドプレゼンツ、渾身のアトラクション『ホーンテッドダンジョン』の、第一階層はクリア。続く第二階層への下り階段は、不気味な明かりに照らされる廟の扉の向こうに見えていた。
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