6-3

 ポリゴン表皮の処理がカスタムのものじゃなく、このダンジョン専用のパッケージと混線を起こしたみたいで、俺の外観は他のモンスターどもと同じ処理が成されてしまったようだ。墓場から蘇えったゾンビの一人として、血だらけの姿になった。

 腕は青白く、ところどころは黒く変色した死人、口から吐いた血がどす黒くなって胸元を染めている。

 ありがとうございます、どこからどう見てもこのダンジョンの構成要員です。


 ちょうどいい位置関係だ。俺の頭半分とクソガキとルナで三角形の図になっている。俺(頭)はちょいルナ寄りにあって、クソガキの真後ろには、むっくりと起き上がったゾンビな景虎のボディが、ずるーりずるーりと近寄っている。ルナは顔面蒼白。

 カイトは異変に気付いていないようで、勝ち誇った笑いを上げてる最中だった。

「あはははは!」

 締めくくりに入ったところなんだろうが、悪いな。

 後ろから羽交い絞めにしてやった。


「ぅ、げぇっ!!」

 自分を背後から抱き込んでる相手を確認して、ウミンチュが真っ青になった。

「ルナ! コイツの武器、取り上げろ!」

 口だけになった俺の顔はなかなかショッキングだ。ルナは嫌々をしてその場で立ち竦んでいる。仕方ねぇな。俺が少しだけ力を強めて肩を締めつけると、カイトの腕が僅かに捩れ、その手を離れた大剣が地に落ちた。


「は、放せ、放せぇ! バケモノ!」

 ウミンチュは上ずった声で、ほとんど泣きながらそう喚いた。

 本気で怖がってやがる。だいたい、死んだら消えるのがセオリーなのに、おかしいと思わなかったのか?

「俺が死んだと思ったか? 本体無事だからな、残念でした。」

 鼻から上が吹っ飛んだ、口だけの顔でにんまりと笑ってみせる。まぁ、軽くホラーなのは俺も認めるところだ。

 あ、白目剥いてやがる。せっかくの決め台詞だったのに……。


「ルナ、落ちた剣を拾って……」

 ひょいと目を向けたら、あっちも泡吹いてやがった。


 しょーがねぇなぁ、もう。てなワケで、俺は気絶したウミンチュを一旦その場に下ろして、チートの大剣を肩に担いだ。俺が俺に向かって歩いてくるってのも、異常な光景のはずだが、なにせもう俺とは思えない醜悪な姿だがからな、何とも感じなかった。

 斬り飛ばされた頭を手で持ち上げて、元の位置へ合わせようと思ったんだけど、ちょっと考えが足りませんでした。目が、目が回るー。両手で自分の視界を持ち上げてどーのこーのとするには、ちょっと三半規管的なストレスが、うえっぷ。

 こりゃーダメだ、と思い直すことにした。あっ、そうか。一旦、この皮剥いじゃえばいいんだ、景虎の方をリモートコントロールしといて、スライムの俺と頭部との分離が巧く行けばなんとかなるかな。

 たゆん、と分離したスライムの水色が切り飛ばされた頭部からぶら下がる。ひぃ、と悲鳴が聞こえて、ルナが再び気絶していた。なんだ、気が付いたと思ったら、忙しいヤツだな。

 なんとか頭をくっつけることは出来たが、酷い目に遭ったぜ。いきなり景色が下から上へ、急激に変動して、しかも捻りまで加えたもんだからジェットコースター並みに酔いが回ってる。

 くらくらするー、うげ、吐き気が止まらん。目のパーツって、意外と重要なんだな。


「うっぷ、自分の迂闊さが自分で憎い。」

 気分が悪くてしゃがみこんだ俺と対象で、目を覚ましたらしいカイトが飛び起きた。俺は吐き気を堪えつつ、逃げようとうするウミンチュの足首をむんずと掴む。逃げんな、クソガキ。

「ごっ、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 半泣きでビビりまくったショタっ子が震えあがった。

 目ぇ覚ました途端に逃げようとするなんざ、よっぽど怖かったんだろうけど。


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