第二話 13日目は金曜日

2-1

『月想世界ペルセフォネ』

 ここは、世界中で星の数ほど生み出された仮想現実空間の一つであり、多人数対応型RPGの体裁を取るネットゲームでもある。<月の女神ペルセフォネの庇護する幻想の大地>という名目のこの場所で、俺含むプレイヤー達は各人が自身の望む第二の人生を謳歌する。戦闘に明け暮れるもよし、交流に時間を費やすもよし……。

 リアルじゃ社会人やってたり、学生やってたり、そういやこのゲームはR18指定って事で、対人戦闘と性交渉も出来るもんだから、お子様にはアクセス制限が掛かっていたりする。12歳以下は登録禁止、16歳以下は一部サービスが適用されません、ていう仕様だ。


 だだっ広いフィールド規模で、大陸二つ分のサイバーデータを備えている。といって、実際の大陸ほどじゃなくって、せいぜいが現実の市町村二つ分ってくらいだけど。これでも広いほうだ。

 その世界観の半分であるフィールドの、特にサバンナ地帯は広かった。俺がスライムなんぞに入ってるもんだから、余計にそう感じるだけかも知れないが。目的地の<始まりの町>は、もう一つの大陸にあって、そこまで徒歩移動なわけだが、俺はスライムだから人間の徒歩より遅い。


 エネミーにはその後も何度かまみえた。黒ウサギの時と同じ対処で切り抜けられたが、幾ら敵を倒してもレベルアップを知らせるメロディは聞こえなかった。AIからのアナウンスはその後丸一日の間続き、翌日には途切れた。


 何かが起きてる。バグの連鎖で管理者である人工知能が破損したのかも知れない、そんな最悪の事態も想像した。電脳空間に連動する生身の頭脳に、制御なしの膨大なデータが逆流すれば、人間のほうも破損するだろう。現に様々な事例の報告がニュースで聞かれていた。死亡した者、植物化した者、錯乱に陥った者、知能障害を引き起こした者、本当に様々だ。

 サーバー暴走のアナウンスから数日が過ぎたのに、まだ他のプレイヤーとは行き会っていない。もう皆、脱出し終えて、俺一人が取り残されてるんじゃないのかとか、嫌な連想が止まらない。


 俺のデータ破損は相当なレベルだ。コントロール・パネルがバグったなんて、こんなの、聞いた事がない。最悪だ。もう、かれこれ十日は経ってる。これだけの長期間に及ぶ閉じ込め事故だ、現実世界で対応が試みられないはずはないんだ。サイバーレスキューが出動し、直接にVR機材の解除を行おうとしたはずだ。俺がまだここにこうして存在してるって事は、外部からの解除不能だったのか、データとしての俺の分身が残ってるだけなのか、どっちかなんだろう。今の俺は、いったい何なんだ。まぁ、どっちに転んでも肉体の保全だけはされてるだろうけど。

 思い切り小型軽量化がされた家庭用VR連結器だけど、万一に備えて大型の生命維持装置にも連動可能になってるはずだからな。最悪でも今頃は、何処かの病院に搬送されて、緊急時VR箇体に繋がってるはずなんだ。機材との連結解除の措置があれこれと試されている、はず。あるいはここに居ると思ってる俺は、ただのコピー意識で、本体はとっくに起き出しているかも知れない。

 いいや。それはないな。コピー意識は連結が解けた瞬間にフリーズするんだから。


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