1-5(改
VR技術に事故は付き物だ。
かつて世界が自動車で溢れていた時代も、それ以前の牛馬の時代にさえ、どんな技術にも生活様式にも、死の危険は付きまとっていたものだ。
今更の事だし、そんなもの、誰も問題視もしない。
新しい技術には新しいリスクが付いて回るなんて、そんな当たり前にイチャモン付けるヤツなど居ない。
電脳世界のリスクは、走る棺桶と同等程度は存在するなんて、そんなのは当たり前の常識だ。運営のAIがしつこいくらいに繰り返す、サーバー暴走という事態にしても、VRが常となった世間では常にある危険の一つに過ぎないことなんだ。
そうは思っちゃいたが、実際、自分の身に降りかかってみると、そんな風に納得も出来ない。
なんで俺がINしてる時にバグったんだこのヤロウだとか、もしか万が一にでもって事だとか、色んな感情が渦巻いて戦闘に集中できない。
そこへまるで煽るみたいな運営のアナウンス。
『みなさ~ん、早くログアウトしちゃってくださいね~。鯖が暴走中、鯖がめっちゃ暴走中でーす。』
この能天気さが、余計に不安を煽りまくるっ。
大丈夫なんだろうな、このAI。
俺の命はコイツに握られてるも同然なんだって、嫌でも思い出させられた。
そうなんだ、この世界が回復するのか、吹っ飛ぶのかも、全部、コイツ次第なんだ。
ゲーム世界の開幕後、何度となく行われるアップデート、これが曲者だと何処かで聞いた。
VR世界の管理はAIが行うのがセオリーだけど、もはやプログラムが複雑すぎて人の手じゃどうにもならないらしい、ってのがもっぱらな噂だ。
実際はキチガイじみたギークでもなきゃ踏み込めない領域の専門分野で、世間じゃニュースにすらならない話だ。
どうせ報道で流したって一般人にゃ解からないから。
必然の格差というヤツだ。プログラミングの専門でもなけりゃチンプンカンプンで、一般の人間は基礎すら理解し難いほど、技術は発達してしまった。
VR世界に没入するシステム機器は小型化が進められてはいるが、直接で脳波と意識とをリンクする為、ケーブルで肉体と機械とを繋ぐという基本仕様の如きは変化していない。
両者の間には微弱な電流が行き来している、もし機械の側が大きな故障でも起こせば、肉体は簡単に死亡してしまう。
機械の負荷システムの故障による感電死は、死亡原因の上位に常にランクインしているくらいだ。当たり前になりすぎて、気にも留めなくなっていた。
あまりに膨大なデータをやり取りする為に、従来型インターネットの電波方式では速度が遅すぎるんだ。
人間の脳波はもともと電気信号だから直接繋ぐ方が早かったって事だな。
それだけに、事故となったらダイレクトだ。
昨今じゃ、機器の安全性向上よりも応急処置の社会保障の充実のが早い。保険は各種が出揃い、ラインナップも超充実してる。
考えたって仕方ない。
俺は深呼吸を繰り返す。
スライムに口や鼻があるわけでもないけど。
保険には入っている。親は泣くかも知れないが事故は時の運だ。
俺は早々に開き直り、うだうだした思考を切り替えに掛かった。シリアス思考は疲れてかなわねぇ。
どうせ、考えたところで何ともなりゃしないんだし。
人間、死ぬ時ぁ、死ぬんだよ、その一言で思考を切り替えて心の中で再び唱える。
『オープン・ステイタス、』
コントロール・パネルと呼ばれる、各種ゲームシステムを呼び出す為の作業パネルが出てくるはずなんだが、何度オープンを唱えてみても画面は現れなかった。
通常なら目の前に、発光する板状のパネルが出現するんだけど。
仕方ない、コントロール・パネルが開かない以上は、手動でスキルの類を無理やりに発動させる事は出来ないという事で、移動の魔法ももちろん使えないという事だ。一瞬で各地にある拠点に移動できるスキップ・プログラムを使おうと思ってたんだけど、断念するっきゃないな。
便利な手段は諦めることにして、俺は歩き……もとい、這いずり始めた。
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