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 バーチャルリアリティの作り出す、リアルな体感とデタラメな世界観の不思議な錯覚。俺は跳ねる事しか出来ないモンスターキャラクターに入っていて、手も足もないこの奇妙さを違和感無しに受け入れている。


 人から見たら、透明ゼリー状の薄水色した物体にしか見えないだろう。

 ファンタジーではもはやお馴染みのモンスター、スライムが今の俺の姿だ。


 俺は、遠い昔に観た、バーチャルシアターの古いシネマの中の世界を求めているんだ。殺人ロボットが過去に遡って歴史を改竄しようとするターミネーターのシリーズだとか、恐竜を甦らせる事で巻き起こるパニックを描いたジュラシックパークだとか、他にも数々の映画作品が生み出した、現実には在りえない世界やヒーローたちに憧れている。その延長に、ゲーム世界を見つけたんだ。


 誰もがヒーローやヒロインになれる夢の世界、ゲームの世界に魅せられた。

 別の人生、別の生活、ワイルドにもタフにもなれる、理想の自分を、本当の自分を曝け出せる場所が欲しい。


 俺が求めるのは、俺にピタリとマッチした、最高に満足のいく世界だ。

 ゲームシステムにも世界観にも妥協のない、俺にとって最高に居心地のいい棲家、そんな世界を探しているのかも知れない。


 沢山のゲーム世界を渡り歩き、いろんな形態を試して、そこそこの満足をもってバーチャルの生活を謳歌して。それでもいつも何かが足りない。


 充足しないまま、別のゲームタイトルがリリースされる度に期待に胸を膨らませてさ。今度こそはと、意気込んで新しい世界に踏み込んで、また何かが足りない、満たされないと、飢えを感じる事の繰り返しだ。


 昔のゲームは完全に外側から見ているだけしか出来なかったわけだけど、やっぱり今よりもっと充実感など味わえなかったんだろうか。

 映画のセットの中に直接立って歩いているような、ここまでの感覚を得られた今ですら、やっぱりここをリアルだなんて思えないのと同じように。


 スライムには手も足も、たしか目も無かったはずだからどうして景色が見えてんのかなんて疑問は、理屈にしようとしても無駄ってくらいに、俺にだってよく解からない。

 リアルなら聴覚とか嗅覚とかでカバーしているものだと思うけど、ゲーム世界は色々とご都合主義なんだ。


 小人になって地面に這いつくばって世界を眺めているような感じがしている。

 空が異様に高くて遠い。


 見えてる景色はこんなにリアルなのに、それでもやっぱり遠い空の色は良く出来た紛い物だと解かってしまう。

 ふと奇妙さに気付いてしまえば、後は際限なしに疑問が浮かぶ。いつもは無視している疑問だ。


 石ころがゴロゴロしてるのに、這いずってる俺の感覚としては別に何も触れてこないんだ。つるつるの床だ。

 目の前の景色は草原で、青い絨毯が風になびいていたりするのに、やっぱり奇妙な作り物なんだ。

 草原に居るはずの俺と黒ウサギの間には、視界を遮るモノは一切ない。

 移動する度にいつの間にか消えうせる草の茂みは、リアルじゃ絶対に存在しない。目に見えているだけの幻だ。


 ホンモノの野っぱらを知らない子供なんてのも、今どきは居るのかなぁ、なんてぼんやりと考えながら俺は黒ウサギに体当たりする作業を続けている。

 自然の森や野原なんてのは、都会じゃお目に掛かれないもんな。


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