第一話 その日、空はバグっていたか

1-1(改

 目の前には黒い山。毛むくじゃらの毛皮の壁。

 ぺたーん、ぺたーん。

 ひたすら俺は山に体当たりする。

 ぺたーん、ぺたーん。

 想いよ届け! どうかそろそろ死んでくれないか!

 ぺたーん、ぺたーん。


 くそう、俺がいつも使っているメインプレイキャラだったら、こんな苦労はしないんだ。こんな黒ウサギ一匹なら、ひょいと剣で払っちまえばそれで終わりだ。

 俺、なんで雑魚ペットのスライムなんかでプレイしようとか思い付いたんだっけ。俺のバカヤロウ。

 ただの荷物入れにしときゃ良かったんだ、つくづく、俺のバカヤロウ。


 新規で購入したサブキャラを育てるのに都合のいいこのフィールドであっても、ザコ敵しか居ない場所であっても、同じ程度のザコキャラ育てるのは苦行だ。

 いつもなら敵ですらないただのゴミエネミーなのによ!


 スライム目線で見る黒ウサギはまるで牛みたいにデカい。

 いや、サイズ的には同じと思うんだが、いつも見てるその比較は人間キャラでのプレイ目線だからな。実際と第三者とじゃ感覚が違うって事か。


 スライムはまた地べたに這いつくばった視点だから、対象は何でもかんでもバカデカい。人間キャラなんぞ足しか見えねーもん。

 ああ、空が、空が、高い。


 果てしない野っぱら。青い空。

 ぺったん、ぺったん。餅つきの俺。

 のどかに草を食む牛。こっち見てる他のうさぎども。

 ぺったん、ぺったん。

 黒ウサが煩そうに反撃、俺は避ける。そんで体当たり。

 ぺったーん。


 だー! いいかげんに死ねよ! 死んでくれ!

 いや、死んでください、おねがいします!


 ぶぉんっ、て風がうなる。ウサ公の体当たり強攻撃だ。

 俺はぴょんと横へ弾んで避ける。セーフ。

 風が流れる感覚とか、爪先が掠っていく時のチリッとした瞬間の痛み。

 スライム目線では地面がとても近い。石ころの表情が解かるんだ。


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