第四の犠牲者
また、執事は獲物を狙う目に変わる。
彼の口調は、諭しているかのようだ。一人一人違った言い回しをする。これにアドバイスがついたら、完璧なカウセリングだ。しかし、褒めて突き落とすだけ。
けれど、死なないように落下地点にトランポリンかマットを敷いて。まるで、彼らの足りない欠点を見直させているような。何とももどかしい。
イタヅラした子どもを叱る大人のようにも、ミスを犯した後輩を指摘する上司にも似た感じが否めない。
◇◆◇◆◇◆
「……畑中アンナ様、ネット上でのご活躍は目覚ましいものと伺っております。」
次のターゲットは、怯えた小さな少女・アンナ。異常と思えるほど、大きくビクついた。夏生がちらちらと気にしている。自分が話し掛けても、"夜々"が話し掛けても怯えていたアンナ。更に年嵩のある男性では、怖いことこの上ない。
「私は、"ネット声優"なるものはあまり詳しくは御座いません。"声優"とは、中々に聞き手を意識した、特異な素晴らしきものと認識いたします。いやはや、"聞かせる力"のあるアンナ様に置かれましては、ファンも大勢いても不思議では御座いませんね。」
遠回しに聞こえるのは、本当に詳しくはないのだろう。
確かに"声優"と一言で言っても、多種多様。舞台役者から声優になった者や、声が特殊で声優になった者、その世界が好きでなった者、洋画の吹き替えに魅せられて声優になった者など、様々。今やネットの普及で、自称出来るネット声優がフリーで、多方面で活躍出来る時代だ。事務所に入れば、マネージャーがつき、サポートが得られる。しかし、フリーでは自分で探して仕事を掴むしかない。
声優の肩書きくらい、今の時代は安易に取れる。
けれど、10年ほど前くらいでは、それさえも厳しかった。1000人に1人、成れるか成れないか。実力主義の時代だったわけだ。
だが、今はアイドル声優が牽引し始めている。見た目と実力、両方を意識した時代になった今、実力があっても脚光を浴びることが出来ない者も増えた。声優とは、声の仕事であるはずなのに。今や、俳優やタレントと大差ない状態である。
時代の移り変わりは、凶と出るか吉と出るか。それを吟味している段階なのではないだろうか。
古き良き時代に生きたファンは未だ困惑を隠せないのも、現代ファンの理解が追いつかないからだろう。
「その界隈で、あなたを知らない者がいないほどと、伺っております。個人製作のボイスドラマや、アニメーション動画での歌の投稿など。あなたが参加している作品は、軒並み好視聴率基、再生回数が数百万規模。実力は折り紙つきと言えましょう。」
褒め方も個人差がある。褒め過ぎた場合の落とし方も様々と言える。だから、この状態はあまり良くない。ダメージは人それぞれだが、アンナは誰よりも怯えている。褒められて尚、青ざめたままだ。
最初の二人は既に、囚われている。麻百合だけは冷静だ。
きっと既に直面し、考えていたのかもしれない。シビアな世界にいるだけあって、もう後がないことも理解していたのだろう。
だが、茉璃と貴哉は違うと取れる。考えていなかったわけではないのではないか。考えたくなくて避けていたのかもしれない。この執事が言わなくても、いづれ誰かが言う可能性だってある。
人は他人に対して客観的だ。いくら仲が良くても、言うべきときには、相手を思って口にする。それをどう汲み取るかが重要だ。
けれど、アンナを見るとそんな相手は居ないように取れる。今にも失神しそうな彼女に降りかかるものはなんだろう。
「アンナ様、あなたは極度の対人恐怖症を患っているそうですね。ネット声優自体は誰にでもなれます。その中でもあなたは秀でた方なのです。しかし、人前に出られなければ、いづれ低迷してしまいます。
今や、アイドル声優が先導している時代。声優や漫画家という職業は、"フリーター"に分類されます。けれど、企業からのオファーがあるからこそ、賃金を得られます。
そんな中、"ネット声優"はどうでしょう?公式のイベントに応募して"声優"になれる可能性がありますが、あなたには出来ません。人前に出られないのですから。
言わば"仕事"ではなく、"趣味"止まり。今はまだ、親御様に養ってもらえますが、大人になったら枷にしかなりません。考えていらっしゃいますか?長いようで短い未成年時代を。お母様以外と話も出来ないあなたは将来、独り立ち出来ますか?
親御様もいづれは、お仕事が出来なくなり、年金生活が始まる。支払った額より少ない年金から、あなたまで養い続けるのは苦痛にしかならないのではないでしょうか。……いっそのこと、"障害者"認定でもされて、"障害者"として支給金で補いますか。」
まだまだ子どものアンナに辛辣な言葉が投げられた。
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