心掻き乱す者 【責め苦】前編
最初の犠牲者
「どういうことよ?!勝手に連れてきて!わけわかんない!」
取り乱す女子高生。
「……騒げば騒ぐほどあなたは自分の首をしめますよ、"佐竹茉璃"様。」
"茉璃"と呼ばれた女子高生は、異様な殺気を感じたのか、青ざめながら絶句した。
「あなたが連れてこられた理由をご説明しましょう。」
多分、これから全員の説明もするのだろう。一人一人の説明をして、疑心暗鬼にさせる。常識人が、【選ばれる】?それとも、巧みに乗り越えた人が【選ばれる】?
全くわからない。
「茉璃様、あなたはお父様が出張で中々お戻りにならない。お寂しい日々を御過ごしかと思われます。お母様も、寂しい思いをされ、二人助け合いながら生活されている。ですから、お母様がいらっしゃることがあなたの支えなのですね。しかし、お父様のお帰りにならない生活による寂しさはとても深い。心中お察し致します。」
何だろう。先程の言葉と打って変わった優しい、重んばかった物言い。違和感がぬぐいされない。茉璃は、困ったように大人しくなっている。きっと本当のことなのだろう。
家族は揃ってこそ、幸せだ。片親と一緒にいられないことは、かなりのストレスとなり、ヒステリックになるのも仕方ない。
だからといって、一抹の不安は拭えない。そしてそれはすぐに明らかになった。
「そんなあなたは、毎日のようにお母様にお父様の話をなさった。あなたが辛いように、お母様も辛い。あなたはそれを話すことで紛らわせました。しかし、果たしてお母様はどうでしょう?あなたと同じだったでしょうか?
……否。
お母様にとっては辛いことだったのです。あなたはなにも知らない。無知で純粋なあなたは汚れも知らない。それは仕方のないことでしょう。しかし、無知とは悪なのです。無知であるがために、あなたはお母様の苦しみをより深くしていきました?
優しいお母様は、あなたが苦しまないように話さなかった事実。話さないことがより一層、あなたの無知さを際立たせたのです。無知であることがどれほど、相手を傷つけるかも知らない。」
茉璃はパニックを起こしそうなほどに、顔面蒼白になっていた。
それでも、執事は話すのを止めない。
「無知は疑うことも知らないのです。……何故こんなにも、お父様が帰還なさらないのか。考えたこともないでしょう。ただ、出張が長引いているだけとしか考えられないあなたには。
………お父様が浮気をなさっているなどととは、微塵も考えなかった。いえ、そんな疑問すら浮かばなかったのでしょう。人は誰しも過ちを犯すものです。多かれ少なかれ、そういう生き物なのですから。」
当たり前の家庭によくある話。知らされなければ、経験がなければ、聞き及んでいなければ知らないのも当然の話。
彼女はまだ高校生なのだ。知らなくても罪にはならない。しかし、執事は執拗に入念に彼女を追い詰めた。
何故、そこまで追い詰める必要があるのか。うら若き少女をそうまでして、責めるでもなく、淡々と追い詰めた。いっそのこと、責められた方が気が楽になる。これでは、若い彼女の心に無理矢理トラウマを植え付けるようなものだ。
果たして、事実なのだろうか。冷静に聞いていれば、憶測にも取れる言い回し。しかしながら、冷静さを掻いた彼女には、残酷な真実に捉えているだろう。信じたくない、でも言われてみればそうかもしれない。
そんな悲しい葛藤。
父親を信じて辛抱強く待っていた少女には、絶望にもなりうる話。何と惨いことだろう。
「……ならば、あなたさえいなければ患わされることなく、考えずに生活出来る。そう思われているとは思いませんか?」
茉璃は両耳を塞ぎ、首を振り続けた。
「や、やめてください!大人の話を彼女にするのは!」
貴哉が茉璃の前に立ち塞がる。茉璃に酷いことを言われたのにも関わらず。
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