【畑中アンナ】

今日もまた『歌ってみた』をアップし、依頼された台詞を提供した。

ネット声優『*Anna*』。この世界で彼女を知らない者などいない。


しかし、素顔の彼女を誰も知らない。アイドル声優並の実力を有しながら、顔出しや素性は公開していないから。

だからと言って、予想に反した容姿をしているわけではない。ネット上では、自信家の彼女。でも、素顔の彼女は自分に自信が持てないのだ。


ハスキーヴォイスの甘い声に魅了された者は多い。だが、彼女は極度のコミュ障であり、人前に出ることを嫌っていた。自宅から出ず、家族以外とは接しない。外の世界が怖い。太陽の光りは彼女には眩しすぎる。だから、勉強も通信に頼るしかなかった。


お腹が空いたらしく、部屋から出ると薄暗い。


「ママ?」


誰の気配もしない。

いつもドアを開ければ、母親が先に話し掛けてきてくれるのに。


不安になりながらも、ゆっくりリビングに向かう。テーブルに何かあった。母親の書き置きかと思ったら、赤い封筒。


「やだ、気持ち悪い。」


『畑中アンナ様』


彼女宛ての黒い太い文字。恐る恐る手に取り、開いてみた。






『畑中アンナ様


時は来ました。お迎えに上がります。』







アンナは怖くなり、手紙を取り落とした。

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