【橘貴哉】

一流企業に現役入社し、営業成績もトップ。

人当たりはかなりいい。30を過ぎて、五年付き合った彼女と婚約もした。

だが、いきなり『好きな人がいるの』と、婚約解消されてしまった。


彼は気がついていない。

自分が優しすぎることに。その優しさが彼女を不安にさせていた。幾度となく同じ繰り返しをしても、彼は学習しなかった。誰も、彼の欠点を指摘しなかったから。


悪い欠点ではない。優しさは必要だから。しかし、彼は誰にでも優しい。

仕事では、それが優位に作用している。彼の誠意ある優しさが、企業受けしていた。


意気消沈しながらも、仕事には一切出さずにやり遂げ、帰宅する。誰もいない、少し高めの家賃のマンション。彼の有能さを物語るには十分なくらいの。


溜め息をつきながら、明かりもつけずに冷蔵庫からビールを取り出す。プルトップを開け、飲みながらリビングのソファに腰掛ける。


ふと、外明かりに照らされたテーブルに、一通の赤い封筒が目に入った。


「何でこんなものが……。」


『橘貴哉様』


赤い封筒に気味が悪い、太字の黒で自分の名前。中身を確認し、便箋を取り出す。






『橘貴哉様


時は来ました。お迎えに上がります。』






なんのことかわからないが、言い知れぬ不安が暗いリビングを支配した……。

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