【有坂麻百合】

地下アイドル『まゆりん』。

今日も笑顔を振り撒き、頑張った。ファンは、いつも五人だけ。増えることも、減ることもない。


「……ずっとこのままかなぁ?」


アイドルに憧れ、上京。五年経ったが、成果はみたまま。歌もダンスもそれなり。五人のファンは、彼女以外見ていない。それだけ、麻百合は可愛いから。この劇場内では見た目とスタイル、歌唱力など全て彼女が勝っている。


しかし、いつも周りは自分より若い女の子ばかり。年齢だけなら、まだまだ若い。でも、アイドルになるには瀬戸際だ。何が足りないんだろう。社長も申し分はないといってくれてはいる。


彼女は知らない。

欠点がないからこそ、個性がないと。何でもそつなくこなしてしまうから、逆に伸び悩む。


━━続けるか、やめるかの決断を迫られていた。


寮に帰ると、やけに静か。

皆、駆け出しでお金がないから、大概いるはずなのに。


ふと、共同スペースのテーブルに赤い封筒を見つけた。


『有坂麻百合様』


自分宛ての、黒くて太い文字に寒気がする。


年長者だからと割り振られた一人部屋に、封筒を持参して入る。閉めたドアにもたれながら、封を開く。






『有坂麻百合様


時は来ました。お迎えに上がります。』






不気味な文章に身震いした……。

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