【神楽坂匡輔】

薄暗い部屋に閉じ籠ってどれくらいかわからない。今日も変わらず、パソコンを打ち続ける。


「……そろそろこのゲームも飽きたな。」


もう誰も自分には敵わない。挑戦者もいない。レベルはとうにMAX。やることがない。


ふと、違和感に気がつく。


「今日はやけに静かだな。」


いつもなら、小さな弟たちが元気に騒ぎ、鬱陶しく感じる時間。母の家事をする規則正しい音も聞こえない。誰かしら必ずいる時間なのに。


「気持ち悪いな。」


椅子から重い腰を持ち上げる。空調は安定していた。自分の部屋に違和感はない。

この部屋の外に出るのは、トイレか風呂くらい。食事はいつも、部屋の外に置いてある。


お金には不自由していない。勤めていた会社の落ち度で、彼は精神に異常を来した。しかし、日常生活には問題ない。会社からの定期的な慰謝料で賄えている。その点では、一般的な引きこもりよりはまともと言えた。


部屋を出て、リビングへ。

いつもなら明るいはずなのに、この時間に真っ暗とはどういうことだろう。スマホを操作しながら確認していると、テーブルに赤い封筒。


「なんだ、これ。」


『神楽坂匡輔様』


黒い太字で宛名しかない。溜め息をつきながら、部屋に戻る。椅子に座り、封のない封筒を徐に開いた。





「神楽坂匡輔様


時は来ました。お迎えに上がります。」





意味のわからない一文だけが浮かんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る