海に沈む声 ―ECHOLOCATION―
それは海底から空へと浮かぶ想い。
光の届かない海底は音だけが頼りだ。
『此処は暗い』
『此処は寒い』
『一人は嫌だ』
海底に響く音は遠く遠く、海を駆け抜ける。
まるで亡者の様に。
絡みつく音の波に囚われる。
それは大切な何かをかき消すようなノイズ。
だけど、不思議とそれは優しさも伴っている。
ここは真っ暗で何も見えない。
目には何も映らない。
だけど音に満ちている。
耳には色々と響く。
沢山の音は沢山の想いを伝えてくる。
此処は暗い。
だけど感じる。
此処は寒い。
だけど優しい。
一人は嫌だ。
だけど音がある。
――――。
優しい音が聞えた。
それは空から届く音だった。
上を見上げる。
何処までも真っ暗な海が続いている。
声を上げる。
音は水を伝って想いを届ける。
真っ暗な世界を音が照らす。
声が導いてくれる。
『イッチャウノ?』
その声は寂しさを孕んだ声。
『聞えたの、
『ソウ』
その声は落胆したように、でも何処か安堵したように呟く。
『イッテラッシャイ』
その声に背を押されるようにして空を目指す。
真っ暗な世界を照らす声に導かれて浮上していく。
『君を呼ぶよ。この海はずっと遠くまで届くから。君の元まで声を届けてくれるから』
『マッテル、ズット、ズット』
――――――――――――
いろんな音が迎えてくれた。
そして眩い光がそこにはあった。
「はじめまして」
「ありがとう」
心に刻まれる音。
忘却の海に沈んでも、この音はずっと響き続ける。
それで君を呼ぶんだ。
そして君に会った時に届けたい。
トクンッ。
この鼓動の素晴らしさと共に。
短編集 @RK-884
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