くしゃみをする地蔵の話
○ 学童保育所・内・一室(夕方)
学校の教室のような場所にテーブルが並んでおり、小学生や幼児が数名いる。
女性の保育士(23)が部屋に来て、
保育士「ノノちゃん。イチカちゃんが迎えに来たよ~」
ノ ノ「お姉ちゃん!」
と、顔を上げ、笑顔になる。
○ 同・外・建物入口前(曇天)
野崎イチカ(13)、ノノの手を握り、保育士と向かい合っている。
イチカは、中学校の制服にコートを羽織ている。ノノは、冬用ジャンパーを着
てランドセルを背負っている。
ふたりともニット帽(耳あて付き)を被っている。
イチカ「(笑顔で)お世話になりました」
保育士「ノノちゃん、またあした~」
ノ ノ「(手を振り)ばいば~い」
イチカとノノ、門に向かって行く。
保育所敷地内には積雪がある。
○ 町中・十字路
雪化粧されている町並み。
イチカとノノ、横断歩道の信号待ちをしている。
と、空から雪が降ってくる。
ノ ノ「わ~、雪、雪!(嬉しそう)」
イチカ「……降ってきたねぇ(嫌そう)」
○ 同・バス停
標識しか無いバス停。
雪が本降りになっている。
そばの路肩には東屋があり、中に一体の地蔵がある。(以下、地蔵小屋)
その地蔵小屋で、高校生の
と、イチカとノノが歩いてくる。
ノノ、修一を見つけると、怖がるようにイチカの背後に隠れる。
イチカ、失礼でごめんなさい、という感じで修一に苦笑いの会釈。
修一、気にする様子なく会釈で応じる。
☓ ☓ ☓
イチカとノノ、バス停標識そばに居る。
風がビューッと通り過ぎる。
ノノ、イチカの袖をひっぱり、
ノ ノ「お姉ちゃん、寒いぃ~」
イチカ「(ノノを見下ろし)もう少しでバス来るから、我慢」
ノ ノ「えぇ~」
顔を上げるイチカ、何かに気づく。
地蔵小屋から修一の姿がなくなっている。
○ 地蔵小屋・内
ノノの服に着いた雪を払っていたイチカ、地蔵に向き直り、手を合わせる。
イチカ「雨宿り……ん?(小首を傾げ)雪宿りさせてください」
ノノもそれに習って合掌すると、
ノ ノ「トトロみたい」
イチカ「だね(笑む)」
○ 空から降り続く雪
○ 地蔵小屋・内
イチカ、空の様子を眺めている。
ノノ、地蔵をじっと見ている。
ノ ノ「お地蔵さん、頭つるつるで寒そう」
イチカ「(振り返って)大丈夫、お地蔵さんは寒いのなんて平気なんだから」
と、地蔵の方から男性のくしゃみ声。
男性の声「くしゅんっ」
イチカとノノ、顔を見合わせる。
ノ ノ「ほら! やっぱり寒いんだよ!」
気味悪そうに地蔵を見るイチカ、
イチカ「……(何かを察し)あっ」
☓ ☓ ☓
イチカとノノ、地蔵の前に立ち、微笑んでいる。イチカの頭からニット帽が無
くなっている。
イチカ「これなら寒くないでしょ」
ノ ノ「うん!」
地蔵の頭に、イチカのニット帽(耳あて付き)が被せられてある。
バスがやって来る。
ノ ノ「バス来た!」
と、一人でバス停へ向かって行く。
イチカ「ごめんなさい。帽子使って下さい」
と、地蔵に向かって一礼をし、
イチカ「ノノ待って!」
地蔵小屋を出て行く。
○ バス停から走り出すバス
○ 地蔵小屋・外
バスの音が遠ざかって行く。
修一、地蔵小屋の後ろから両耳を擦って出てくる。頭には雪が積もっている。
赤い耳の修一、バスを見送り、
修 一「俺も乗りたかったんだけどなぁ。……くしゅんっ(鼻をすする)」
○ 同・内
地蔵の頭から、イチカのニット帽が無くなっている。
修一、イチカのニット帽を被っている。
耳当てを耳に押しつけながら、
修 一「あったけぇ~」
地蔵、微笑んでいるような表情。
○ 中学校・校門前(翌日/夕方/曇天)
イチカが女生徒と校門から出て来る。
イチカ「またね」
と、女生徒と別れて道を歩いて行く。
○ 町中・十字路
アイスバーンの横断歩道を、人が行き交っている。
イチカ、前日に信号待ちをしていた方向とは反対側から、道を歩いてくる。
イチカが横断歩道に立ち入る前に、歩行者用の青信号が点滅を開始。(他の歩
行者は横断歩道を渡り終えようとしている)
イチカ「!(渡ろうと駆けだす)」
が、横断歩道に侵入しようとする寸前、対岸から渡ってきた修一と擦れ違う。
修一、イチカのニット帽を被っている。
イチカ「(ニット帽が目に留まり)あっ」
修 一「――(気づかず、歩みを進める)」
イチカ、立ち止まって、振り返る。
イチカ「あの、昨日は――」
そこへ、車道からクラクション。
青信号側の車が、交差点入り口で止まり、クラクションを鳴らしている。その
前を、赤信号で止まらなければならないはずの車が、凍った交差点を勢い良く
滑って行き、イチカが渡ろうとしていた横断歩道を横切って行く。それはイチ
カが横断歩道を渡っていたら轢かれてしまうタイミングである。
歩行者信号が赤になって、信号待ちをしている大学生風の男二人組。
男 A「あっぶねぇなぁ」
男 B「スピード出してくっからだよ。あれ、ノーマル(タイヤ)だぜ」
横滑りして来た車、そのまま走り去っていく。
交差点を茫然と見ていたイチカ、
イチカ「――(ハッとして)」
修一が歩って行った方を振り向く。
後方の道には、すでに修一の姿は無くなっている。
☓ ☓ ☓
横滑りした車が走っていった方を見ている男Aと男B。
男 A「あ、また滑った」
タイヤが滑る音と、ガシャンという音。
男 B「(笑って)ざまぁ」
○ 同・十字路を過ぎた道
交差点を横滑りした車が、ガードレールに突っ込み、煙を上げている。
運転手と思われるチャラチャラした格好の男が傍に立って、頭を抱えている。
○ 学童保育所・外観
建物入り口で、イチカとノノが手を握り、保育士と向き合っている。
イチカ、保育士に頭を下げると、ノノの手を引いて門に向かっていく。ノノは
保育士にバイバイと手を振る。
○ 同・門への道
イチカとノノが門へと歩いて行く。
イチカ「♪(嬉しそうな表情をしている)」
ノ ノ「お姉ちゃんどうしたの?」
イチカ「ん?」
ノ ノ「嬉しそう」
イチカ「さっきね、昨日のお地蔵さんに助けてもらったんだ」
ノ ノ「えぇっ、ほんとに!?」
と、ノノの鼻先に、雪が舞い降りる。
イチカとノノ、空を見上げる。
ノ ノ「雪、雪~!(嬉しそう)」
イチカ「降ってきたねぇ(嬉しそう)」
○ 雪が降っている空
○ 町中・バス停(雪)
そばの地蔵小屋で、ニット帽を被った修一が雪宿りをしている。
バス停に向かって、イチカとノノが手をつないで歩いてきている。
[END]
【シナリオ】 くしゃみをする地蔵の話 のうみ @noumi
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