くしゃみをする地蔵の話

○ 学童保育所・内・一室(夕方)

   学校の教室のような場所にテーブルが並んでおり、小学生や幼児が数名いる。

   野崎のざきノノ(7)、テーブルに着き、小2で習う漢字の書き取りをしている。

   女性の保育士(23)が部屋に来て、

保育士「ノノちゃん。イチカちゃんが迎えに来たよ~」

ノ ノ「お姉ちゃん!」

   と、顔を上げ、笑顔になる。


○ 同・外・建物入口前(曇天)

   野崎イチカ(13)、ノノの手を握り、保育士と向かい合っている。

   イチカは、中学校の制服にコートを羽織ている。ノノは、冬用ジャンパーを着

   てランドセルを背負っている。

   ふたりともニット帽(耳あて付き)を被っている。

イチカ「(笑顔で)お世話になりました」

保育士「ノノちゃん、またあした~」

ノ ノ「(手を振り)ばいば~い」

   イチカとノノ、門に向かって行く。

   保育所敷地内には積雪がある。


○ 町中・十字路

   雪化粧されている町並み。

   イチカとノノ、横断歩道の信号待ちをしている。

   と、空から雪が降ってくる。

ノ ノ「わ~、雪、雪!(嬉しそう)」

イチカ「……降ってきたねぇ(嫌そう)」


○ 同・バス停

   標識しか無いバス停。

   雪が本降りになっている。

   そばの路肩には東屋があり、中に一体の地蔵がある。(以下、地蔵小屋)

   その地蔵小屋で、高校生の稲村修一いなむらしゅういち(16)が、雪宿りをしている。

   と、イチカとノノが歩いてくる。

   ノノ、修一を見つけると、怖がるようにイチカの背後に隠れる。

   イチカ、失礼でごめんなさい、という感じで修一に苦笑いの会釈。

   修一、気にする様子なく会釈で応じる。

     ☓   ☓   ☓

   イチカとノノ、バス停標識そばに居る。

   風がビューッと通り過ぎる。

   ノノ、イチカの袖をひっぱり、

ノ ノ「お姉ちゃん、寒いぃ~」

イチカ「(ノノを見下ろし)もう少しでバス来るから、我慢」

ノ ノ「えぇ~」

   顔を上げるイチカ、何かに気づく。

   地蔵小屋から修一の姿がなくなっている。


○ 地蔵小屋・内

   ノノの服に着いた雪を払っていたイチカ、地蔵に向き直り、手を合わせる。

イチカ「雨宿り……ん?(小首を傾げ)雪宿りさせてください」

   ノノもそれに習って合掌すると、

ノ ノ「トトロみたい」

イチカ「だね(笑む)」


○ 空から降り続く雪


○ 地蔵小屋・内

   イチカ、空の様子を眺めている。

   ノノ、地蔵をじっと見ている。

ノ ノ「お地蔵さん、頭つるつるで寒そう」

イチカ「(振り返って)大丈夫、お地蔵さんは寒いのなんて平気なんだから」

   と、地蔵の方から男性のくしゃみ声。

男性の声「くしゅんっ」

   イチカとノノ、顔を見合わせる。

ノ ノ「ほら! やっぱり寒いんだよ!」

   気味悪そうに地蔵を見るイチカ、

イチカ「……(何かを察し)あっ」

     ☓   ☓   ☓

   イチカとノノ、地蔵の前に立ち、微笑んでいる。イチカの頭からニット帽が無

   くなっている。

イチカ「これなら寒くないでしょ」

ノ ノ「うん!」

   地蔵の頭に、イチカのニット帽(耳あて付き)が被せられてある。

   バスがやって来る。

ノ ノ「バス来た!」

   と、一人でバス停へ向かって行く。

イチカ「ごめんなさい。帽子使って下さい」

   と、地蔵に向かって一礼をし、

イチカ「ノノ待って!」

   地蔵小屋を出て行く。


○ バス停から走り出すバス


○ 地蔵小屋・外

   バスの音が遠ざかって行く。

   修一、地蔵小屋の後ろから両耳を擦って出てくる。頭には雪が積もっている。

   赤い耳の修一、バスを見送り、

修 一「俺も乗りたかったんだけどなぁ。……くしゅんっ(鼻をすする)」


○ 同・内

   地蔵の頭から、イチカのニット帽が無くなっている。

   修一、イチカのニット帽を被っている。

   耳当てを耳に押しつけながら、

修 一「あったけぇ~」

   地蔵、微笑んでいるような表情。


○ 中学校・校門前(翌日/夕方/曇天)

   イチカが女生徒と校門から出て来る。

イチカ「またね」

   と、女生徒と別れて道を歩いて行く。


○ 町中・十字路

   アイスバーンの横断歩道を、人が行き交っている。

   イチカ、前日に信号待ちをしていた方向とは反対側から、道を歩いてくる。

   イチカが横断歩道に立ち入る前に、歩行者用の青信号が点滅を開始。(他の歩

   行者は横断歩道を渡り終えようとしている)

イチカ「!(渡ろうと駆けだす)」

   が、横断歩道に侵入しようとする寸前、対岸から渡ってきた修一と擦れ違う。

   修一、イチカのニット帽を被っている。

イチカ「(ニット帽が目に留まり)あっ」

修 一「――(気づかず、歩みを進める)」

   イチカ、立ち止まって、振り返る。

イチカ「あの、昨日は――」

   そこへ、車道からクラクション。

   青信号側の車が、交差点入り口で止まり、クラクションを鳴らしている。その

   前を、赤信号で止まらなければならないはずの車が、凍った交差点を勢い良く

   滑って行き、イチカが渡ろうとしていた横断歩道を横切って行く。それはイチ

   カが横断歩道を渡っていたら轢かれてしまうタイミングである。

   歩行者信号が赤になって、信号待ちをしている大学生風の男二人組。

男 A「あっぶねぇなぁ」

男 B「スピード出してくっからだよ。あれ、ノーマル(タイヤ)だぜ」

   横滑りして来た車、そのまま走り去っていく。

   交差点を茫然と見ていたイチカ、

イチカ「――(ハッとして)」

   修一が歩って行った方を振り向く。

   後方の道には、すでに修一の姿は無くなっている。

     ☓   ☓   ☓

   横滑りした車が走っていった方を見ている男Aと男B。

男 A「あ、また滑った」

   タイヤが滑る音と、ガシャンという音。

男 B「(笑って)ざまぁ」


○ 同・十字路を過ぎた道

   交差点を横滑りした車が、ガードレールに突っ込み、煙を上げている。

   運転手と思われるチャラチャラした格好の男が傍に立って、頭を抱えている。


○ 学童保育所・外観

   建物入り口で、イチカとノノが手を握り、保育士と向き合っている。

   イチカ、保育士に頭を下げると、ノノの手を引いて門に向かっていく。ノノは

   保育士にバイバイと手を振る。


○ 同・門への道

   イチカとノノが門へと歩いて行く。

イチカ「♪(嬉しそうな表情をしている)」

ノ ノ「お姉ちゃんどうしたの?」

イチカ「ん?」

ノ ノ「嬉しそう」

イチカ「さっきね、昨日のお地蔵さんに助けてもらったんだ」

ノ ノ「えぇっ、ほんとに!?」

   と、ノノの鼻先に、雪が舞い降りる。

   イチカとノノ、空を見上げる。

ノ ノ「雪、雪~!(嬉しそう)」

イチカ「降ってきたねぇ(嬉しそう)」


○ 雪が降っている空


○ 町中・バス停(雪)

   そばの地蔵小屋で、ニット帽を被った修一が雪宿りをしている。

   バス停に向かって、イチカとノノが手をつないで歩いてきている。


[END]

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【シナリオ】 くしゃみをする地蔵の話 のうみ @noumi

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