第28話 親子会議

 息子も睡眠状態に入りなんとかなった俺は、巣に戻り女王のいる部屋に直行した。

 女王は警備の娘二人と話をしていたが、俺がいつもと違う雰囲気だと察した娘が、俺に対して槍を構えようとするのを女王が手で押し止めるのが目に入る。


『あら、おかえりーー』


『ちょっと、いいかな?』


 女王の言葉を遮ると訝しげな顔をして俺を見てきた。

 俺の頭には急ぎさっきの出来事について話さなければと頭の中が一杯になっていた。


『娘に、犯されそうだった』


『……受け入れたの?』


『逃げてきた』


『どうして逃げたの?』


『それは、え~っと……親子、駄目だから』


 色々と女王の考えを聞きたいところなんだが、使い慣れない言葉を喋ろうとするとどうしても単語を頭の中で探してしまうので、喋りがたどたどしくなり間が空いてしまいもどかしい。


 つたない俺の喋りを女王は言い終えるまで待ってくれる。


『なんで親子ではしちゃいけないの?』


『……自分は、それが普通の考え』


 常識や論理といった言葉を言いたかったが、まだ娘にも教えていないし、俺もこちらの言葉でそれらの単語を教えられてないので言えなかった。


『この時期だと不幸なことが起こるかもしれないから、娘の願いを叶えたかったの』


『どういうことだ?』


 不幸なこと?何か特別なことがあるのか?


『メリュジーヌ、アルラウネ、そして私達ジャイアントアントが森に住んでるのはわかる?』


 俺は頷き返し返答する。


『この時期は森に食料が豊富に実るの。だからその食料を人間が狙って入ってくる時があるのよ』


『言いたいこと、わかった』


 つまり不幸なこととは、アルラウネの妹のように人間に殺られる可能性があるということだ。


 俺はアルラウネの妹のことを思い出して、胸の奥でくすぶっていた苦々しい気持ちが沸き上がる。


 気持ちが顔に出てたのか女王はアルラウネのことを話し始めた。


『アルラウネの妹のようなことは稀よ。アルラウネは幼少の頃は非力だから、さらわれることもあるの。それを考えるとあの子は連れ去られなかっただけ運がよかったわ』


 女王の話を聞き俺は、連れ去られた後どうなるかを考えてしまった。


 もし、俺の世界でのマンドラゴラと同じなら、その身体は高く売られ、殺された上に身体をすり潰され、薬の材料にさるのだろうか?


 その場面を想像して、顔から血の気が引いていくのがわかった。


『そういうこともあるから、娘達の望みは可能ならなるべく叶えるようにしてあげてるのよ』


 なんて返せばいいんだ?死ぬ可能性のある娘達の望みを叶えてる女王は母としても立派だ。それに対して俺は自分の価値観で娘の望みを拒否してしまった……でも、俺は娘とすることが出来ない。

 この選択で後悔することにならないといいんだが……


『自分には、無理だ』


『それは娘とすることが?』


 俺は女王の質問に頷き返すと、女王は困った顔する。


『そう……娘には可哀想だけど、貴方の気持ちが変わるのを待つしかないわね』


 女王はため息を吐き出した後、ひととき天井を仰ぎ何かを考えてた。

 考えが纏まったのか女王は警備していた娘に向かってこう言った。


『話は聞いてからわかると思うけど、当事者の娘を探してここに連れてきて』


『警備はどうするのママ?』


『この人がしてくれるわ。さあ、行っていって』


 警護の娘二人は出て行くのを渋っていたが、女王の気持ちが変わらないとわかると、渋々と部屋からから出て行った。


『さて、これで二人っきりになったわね。当事者の娘が帰ってくるまでに、それをなんとかしないと格好がつかないわよ』


 「それ」と女王が指さすところを見ると、息子がまた起きていた。

 まだアルラウネの液の効力が残っているていたのか。


 今の俺が女王を誘って子作りしてしまったら、それはこの息子を鎮める為に女王の身体を使ってしまったことになる。だから俺は一人で済ませようと部屋を出て行こうとすると『待ちなさい』と女王に呼び止められた。


 振り向くと女王は、しなを作りながらこう言ってくる。


『この頃身体が凝ってきたの。よかったら、ほぐしてくれないかしら?』


 女王から誘ってくれるなら問題ないな。雰囲気を読んで誘ってくれるとは、女王は本当に良い女だ。


『喜んで』


 俺は女王のさり気ない気遣いに報いる為に、どのように煽って雰囲気を盛り上げようと考えながら近寄って行った。




 お互いの凝りを解し終えて着替え終えた時、警護の娘二人が今回の当事者を連れてきた。


『連れきたよママ』


『ありがとう。さて、それじゃあ親子で話し合いしましょう』


 上機嫌な声をしている女王に、娘は訝しげに見ながら口を開いた。


『あたしはパパと交尾がしたいのはこの間話したよね?』


『そうね。それでアルラウネの液を飲ませたらってアドバイスしたけれど、失敗したようね』


『うん』


『えっ?』


 あれ考えたのママだったの?


『さっきパパと話たんだけど、パパのいた所は親子では交尾しないのが普通みたいなのよ』


『けど、ママの話だと人間の間では時々やってることだって、言ってたじゃない』


『そうなの?』


 パパその話初めて聞いたよ。いや、聞いてても娘と関係は持たないけど。


『そうよ。パパのいた所はこっちとは考えが違うようね。ママから頼んでも無理だったわ』


 女王がそう言うと娘は目をふせるて悲しそうな顔している。


『だから、頑張って押し倒しなさい。アルラウネの液を使ってでも、押し切りなさい』


『うん!』


「へっ?諦めましょうって話じゃなかったの!?」


 予想してなかった結論に、つい日本語で喋ってしまった。


「そういうことだから覚悟してねパパ!」


「いやいやいや、覚悟しないから諦めて!お願いだから諦めて!!」


 女王を見て助けを求めるが、笑顔満点でにこにことしている。


「ママの裏切り者ー!!」


 俺の叫び声が、巣の中をむなしくこだました。

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